連載エッセイ242:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その45 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ242:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その45


連載エッセイ239

「南米現地最新レポート」その45

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「5月7日発」

先週の大統領選挙は、直前までの”大接戦”との予想を覆し、与党コロラド党選出のSantiagto  Peña氏が二位のEfraín Alegre氏に15ポイントの大差をつけて次期大統領に選出されました。

ただ、最近の選挙ではお約束のようになりつつある結果に不満を持つグループの抗議行動によって各地で幹線道路が封鎖されて、予期せぬ渋滞があちこちで発生しました。

抗議行動を起こしたのは次点で敗れたエフライン氏の支持者ではなく、三位のParaguayo “Payo” Cubas氏を支持するグループで、しかも抗議行動に参加したのは選挙権を持たない未成年が多く、Cubas氏は騒乱を主導した罪で収監されました。こうした抗議行動に関しては、Peña氏がCNNの取材に応じて遺憾の意を表明する様子がご覧になれます。

https://cnnespanol.cnn.com/video/presidente-electo-paraguay-denuncias-fraude-electoral-santiago-pena-fernando-del-rincon-conclusiones-cnne/

ところで、先週はテレビ朝日の報道番組の取材を受けたと書きましたが、南米では見られないと思っていたところ、名古屋在住の友人がYoutubeにあげられた番組の録画URLを教えてくれました。  https://www.youtube.com/watch?v=0mONFIE7Uc8

この番組は二時間半もの長尺ですが、パラグアイ特集は1時間34分経過した正午部分から視聴できます。

日本で滅多に報道されることのないパラグアイが平日の昼間とは言え1時間もの時間を割いて取り上げられたのは非常に有難いことで、台湾問題と絡めてパラグアイへの関心を高めてくれたテレビ朝日には感謝します。

ただ国のあらましを紹介する部分で「一日1.09ドル未満(これは1.90ドルの間違い)で生活する人口が195万人と国民の四人に一人が貧困層に属する、とされた部分には強い違和感を感じました。世界銀行が定義する貧困者とは、国際貧困ラインを2011年の購買力平価(PPP)に基づき一日1.90ドル(現状では約250円)以下で暮らす人とされていますが、小農と定義される人達でも平均10ヘクタールの農地を持つパラグアイでは、現金収入が少なくても生活が成り立つという部分が考慮されていません。

https://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/01/08/open-data-poverty

ベネズエラ・ペルー・ブラジルでの駐在生活を経験し、南米の国々はほぼ全て訪問し、且つ東京本社勤務時代は、経済協力案件で東南アジアやアフリカ諸国への出張もこなした経験から、貨幣経済だけでは測ることの出来ない貧困の定義が存在することを強く感じています。2013年1月27日付のペルーの言葉でも「リマ市民の73%が自分たちを貧困層ではないと定義している(Un 73% de limeños no se consideran pobres, según estudio)と大々的に報じられていた、と書いたのですが、現地の肌感覚では南米の貧困というのは、何でも貨幣価値に換算する統計データで政治が動く旧来の”先進国モデル”では推し量れない次元のものです。

また、中国がパラグアイを抱き込もうとしていた背景には、単に台湾の孤立化を図るという目的以外に、豊富な食糧資源の確保という、大きな意味があったことを視聴者には理解して頂きたいと感じた次第です。

日本の人口減少が日々報じられているので、世界人口が増え続けていることの意味合いが日本では理解されにくくなっているように思いますが、今後重要なのは如何に国民を食べさせる政治が必要か?ということですから、毎度同じことを主張して恐縮ですが、食糧自給率世界一のパラグアイとの提携関係は、台湾だけでなく日本にとっても極めて重要であることを再度ご認識ください。

「5月14日発」

パラグアイは5月15日がDía de la Independencia Nacional(建国記念日)で祝日で、三連休となったのを利用して、且つて頻繁に仕事で出向いたブラジルのパラナ州クリチバと、港町Paranaguaに来ました。   https://en.wikipedia.org/wiki/Paranagu%C3%A1

Paranaguaは1648年に開かれた古くて美しい町で、今でもブラジルの大農業地帯であるパラナ州における輸出拠点として重要な地位を占めています。

1648年は日本では慶安元年、三代将軍徳川家光の時代ですから、江戸幕府が鎖国(1638~1854年)を始めて間もない頃です。因みに東京港がいつ開港したのか?というと、なんと太平洋戦争開戦の年1941年だそうです。https://www.kouwan.metro.tokyo.lg.jp/yakuwari/rekishi/

古い港湾都市Paranaguaですが、一方で増加する貨物量に対応する為に色々な物流拠点の建設が行われていて、旧職の時代に訪問していた十年ほど前と比べて随分と新しい建物が増えたように感じます。また、旧市街に観光客を呼び込むための整備を積極的に行われている様子で、こうした工事が進むと、非常に魅力的な観光地になると思います。

ブラジルは今年1月に発足した第二次ルラ大統領政権の発足によって経済が減速するのではないか?との懸念を持つ人が多くいましたが、今のところは大きな混乱の無いまま、世界的な食糧不足の懸念などを背景に順調な成長を遂げているという印象です。

今回、パラグアイのエステ市から700km以上の道のりを10時間近くかけて運転してきましたが、途中の整備も進んでいて、道路インフラはブラジル側でも着実に向上しているという印象を受けました。日本ではブラジルというと、サンパウロとリオデジャネイロというイメージが代表的ですが、サンパウロ以南にも産業的にも観光面でも魅力的な地域が存在しますので、パラグアイと併せご注目ください。

「5月21日発」

パラグアイで遂に鳥インフルエンザの発症が報告されました。

https://www.ultimahora.com/senacsa-confirma-casos-gripe-aviar-paraguay-n3063514.html

今回報告があったのは、首都から500㎞以上離れた比較的過疎な地域である北西部チャコ地方のマリスカルエスティガリビア市とネウランド市で、養鶏の中心であるアスンシオン周辺でのものではありません。アスンシオン周辺では、100万羽以上を集中的に飼育する養鶏場が複数存在しますが、今回の症例では殺処分される鳥の数は併せて100羽強ということで、今のところ被害は軽微であると言えます。ただ、日本でも卵不足を解消する為にブラジルからの卵の輸入が報じられた直後であり、チャコ地方はブラジルに隣接する地域でもあるので、今後も十分な警戒が必要と言えます。

一方、今日の言葉avicola=養鶏の、によく似た単語でapicolaというのがあります。養蜂の、という意味の言葉ですが、これも今日の新聞でニュースになっていました。

https://www.lanacion.com.py/negocios/2023/05/20/apicultores-proyectan-primer-envio-de-miel-de-abeja-al-mercado-de-argelia/

パラグアイでは養蜂も盛んにおこなわれていて、世界有数の蜂蜜生産国であるブラジルやアルゼンチンと同じ程度の養蜂業者が存在すると考えられます。ただ、その多くは統計に載らないので、世界ランキングでみるとパラグアイの生産量は日本(2,886トン)よりも少ない1,826トンとされています。

https://www.atlasbig.com/en-us/countries-by-honey-production

ただ、これまでパラグアイ中を走って色々な産業を観察した印象では、全国各地で養蜂は盛んにおこなわれ、地域消費に回って統計に載らない生産量が相当量存在するものと考えます。

「突撃カネオ君」というNHKの番組で、ドーナツ特集の中で蜂蜜需要も増加していると知りました。

https://www.lanacion.com.py/negocios/2023/05/20/apicultores-proyectan-primer-envio-de-miel-de-abeja-al-mercado-de-argelia/

パラグアイからなんとアルジェリアへの蜂蜜輸出が始まったそうです。もし日本の皆さんもパラグアイ産の蜂蜜に御興味があればお知らせください。

それから今日の記事で気になったのが収穫しても活用されない果物の記事。

https://www.abc.com.py/nacionales/2023/05/20/como-conservar-las-frutas-de-estacion-que-abundan-en-patios-y-veredas/

果物に限らず、加工技術が無いために、折角の作物が食用に供されないまま廃棄される事象が多くみられるのがパラグアイの実情です。日本の加工・保存技術を活用して、世界の需給バランスの平準化に寄与できれば素晴らしいことだと思いますので、こちらの方も是非ご検討ください。

「5月28日発」

今週はアスンシオンで建設業界の展示会Constructecniaが開催され、コンクリート補強繊維を製造するプロジェクトをパラグアイで周知してもらうために展示社の一つとして参加してきました。

https://www.lanacion.com.py/negocios_edicion_impresa/2023/05/24/constructecnia-la-mayor-feria-de-la-construccion-abre-sus-puertas/

統計上パラグアイGDPの7%を占める建設業界ですが、住宅の建設や道路の整備が急ピッチで進んでいる様子を目の当たりにしていると、この分野は今後も安定的に成長することが容易に予測でき、来場者も非常に多く、会場となった広大なオリンピック公園の駐車場は国内だけでなく隣国ブラジルやアルゼンチン等のナンバーを付けたクルマも沢山見受けられました。

今回の我々の出展にはチリやメキシコの仲間も参加してくれたのですが、パラグアイ経済の発展ぶりに目を見張り、グアテマラからの投資等を目の当たりにして引き続きパラグアイへの注視が必要との認識を強くしていました。

またabc color紙では、エクアドルの前大統領であるレニンモレノ氏のロシオ夫人が、2021年のモレノ氏の退任後パラグアイに在住しており、パラグアイを大変気に入ったロシオ夫人が自らパラグアイの紹介誌の編纂に関与されたとの記事が掲載されました。”Atrapante Paraguay, a los ojos del visitante”(外国人の視点から視た魅惑的なパラグアイ)

https://www.abc.com.py/edicion-impresa/suplementos/abc-revista/2023/05/28/atrapante-paraguay-a-los-ojos-del-visitante/

彼女が手にしている『パラグアイ黄金ガイドブック』は、印刷版だけでなくデジタルでも閲覧可能ですから、是非ご覧ください。

https://www.guiadeoroparaguay.com/

今回の建設展示会で非常に印象的だったのは、大勢の来場者の中で、いわゆる業界人でない一般のお客さん達は自分の家を建てる参考にしたい、という層の方々が多く、しかもそうした人たちの半数近くがスペイン語を話せない外国人、特にドイツ語系の人達だったということです。ロシアによるウクライナ侵攻は、単に東欧の旧ソ連の国々だけでなく、欧州全体に不安を撒き散らしている一方、パラグアイが安全な逃避先として注目されていることを肌身で感じる5日間のイベントでした。

以   上