フィデル・カストロ率いるキューバ革命やチェ・ゲバラに関する出版は多いが、知られているようで知られていないのがキューバの歴史である。本書は、コロンブスの到来前後の先住民社会の様子から始まり、スペインによる征服、植民地化、キューバの人種構成で大きな割合を占めることになったアフリカ系黒人奴隷の出自と奴隷社会の構造、アフロキューバ文化を解説している。かつてキューバといえば砂糖経済の国といわれたが、砂糖生産の拡大と米国資本の進出、スペインからの独立戦争と奴隷解放の歴史を辿る。独立運動に生涯を捧げたホセ・マルティが創設したキューバ革命党は、キューバ革命がその精神を受け継ぐものだが、革命が成立して間もない1959年には直ちに砂糖という単一作物に大きく依存した農業の改革が着手されており、1961年の社会主義宣言後、農業面における社会主義的改造は迅速に行われた。とはいえ、キューバの社会主義建設は宣言後も試行錯誤を繰り返しつつ、社会主義制度化が進められ1976年の新憲法成立で一応出来上がったのである。
最後にキューバの民族文化をその特色である様々な分野における混合性を中心に論じ、新大陸で最も早く16世紀初めに建設された植民地都市ハバナの居留地から都市に、そして首都へと発展した歴史と近代化を紹介している。類書の少ない中で通史ではないが、キューバ革命の背景、基礎となっている歴史を知ることが出来る論集である。
(文理閣2010年8月230頁2600円+税)