執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)
A.New Business事件裁判
5月23日に、マルティネリ元大統領(2009年-2014年)が被告人となっている裁判が開始された。マルティネリ元大統領と他の21人が様々な会社を通して、パナマ国庫から約4400万ドルを利用して、マスメディア企業の大手のEPASAを買収したためマネーロンダリングの疑いで裁判を受けている。この裁判は、既に行われている中南米史上最大の汚職事件であるオデルブレヒト事件とは別件である。マルティネリ元大統領は、調査の違法性、選挙特権、体調不良等のような理由で何度も裁判の延期を求めたが、すべて棄却された。背中の手術があったため、23日の裁判に出頭できないと主張し、改めて延期を請求したが裁判官が拒否した。
マルティネリ元大統領は、自ら結成したRealizando Metas党(RM党)の候補として大統領選挙に出馬すると発表している。しかし、パナマ憲法では、禁固5年以上の有罪判決を受けた者は大統領選挙に出る権利がないと定められており、場合によってマルティネリ元大統領の政治家としてのキャリアが終わる可能性がある。また、マルティネリ元大統領の息子であるリカルド・マルティネリとルイス・マルティネリは、2022年5月に、ニューヨーク州の連邦裁判所で行われた、北・中・南米オデブレヒト汚職事件の関与について、禁錮33ヶ月の有罪判決が下された。裁判所は、マルティネリ兄弟について仮釈放を認め、2年間の保護観察を命令したが、アメリカに在留資格がないため、2023年1月下旬に帰国した。 ニューヨーク州の連邦裁判所では、弁護人を通して、マルティネリ兄弟は父であるマルティネリ元大統領から資金洗浄を行うように命令されたと述べている。
アメリカ政府は1月下旬に汚職事件関与を根拠とし、マルティネリ元大統領とその家族を入国禁止とした。
B.コルティソ大統領の健康
2022年6月に診断されたコルティソ大統領の骨髄異形成症候群が完全緩解していると発表した。2022年7月にコルティソ大統領はアメリカでセカンドオピニオンを求め、薬剤で医療を続けた。医療結果報告を受け業務を再開してパナマに帰ったコルティソ大統領は、民間企業と労働者の代表に年金制度改正のための協力を要請した。
A.キャッシュレス決済の採用
ペルーの金融持株会社Credicorpの中南米におけるキャッシュレス決済採用に関する調査によると、パナマは上位2位だと分かった。パナマにおけるネットバンキングの利用は21%を占め、14%のユーザーがスマホから銀行のサービスにアクセスしている。また、パナマ人の47%(前年同期比10%増)は、デジタルウォレットを持っていて、パナマ人の61%がネットバンキングでの取引を信頼している。決済ブランドを運営するVISAの2021年の報告によると、パナマの対面取引で65%がキャッシュレスで決済されている。
5月中旬に、いくつかの銀行は、米国のApple社のApple Payのキャッシュレス決済を提供し始めた。パナマ国家銀行が2020年1月からパナマ技術大学の学生が開発したシステムを利用し、デジタルウォレットサービスを採用している。また、2023年2月に、パナマメトロ局は、VISAの非接触型ICカードによる乗車料金の支払い制度を開始し、4月上旬時点では3万6千人が利用した。
B.経済活動
パナマ統計局によると、1月の経済活動指数は、前年同期比9.8%増加している。すべての業界のうち、観光に関する業界(レストラン、ホテルも含む)は特に成長している。世界旅行ツーリズム協議会によると、2023年にパナマの観光業界の企業は40万人(人口17%)を雇用し、総合利益は110億ドル(予測GDPの17%)となることを予測している。3月の調査によると57%の企業は2023年後半に新社員を採用する予定があるとわかった。
A.金融活動作業部会(GAFI)のグレイリスト
GAFIのグレイリストからパナマの取り消しに関する交渉が継続している。5月上旬にアルメゴール経済財政省大臣がメキシコでGAFIの代表と対談し、パナマ政府の対マネーロンダリング措置の実地を報告した。GAFIがパナマ政府に求めている15件の目標の中、13件は既に達成されている。近年、ペーパーカンパニー対策として、パナマのすべての会社には受益者登記が義務化された。アルメゴール経済財政省大臣によると、現時点では、パナマの50%の会社は既に登記を行い、受益者の60%は外国人だとわかった。さらに、代表弁護士(agente residente)の登録を行っていない、または3年間の法人税を納税していない会社の法人格が停止され、5月上旬時点で、年間5億ドルの法人税に値する50万社が既に登記抹消の対象とされた。
以 上