スペイン生まれでパリのソルボンヌ大学等でコミュニケーション論の教授、外交問題等の月刊専門誌の編集長を務めた著者が、1959年の革命の後ずっとキューバを指導してきたカストロ前国家評議会議長に長時間にわたってインタビューし纏めた事実上のカストロ自伝。
1926年にスペイン移民の子として生まれてその幼少時代から、政治に参加し武装蜂起してモンカダ兵営を襲うも失敗して裁判にかけられ、メキシコに亡命してチェ・ゲバラと出会い、ともにマエストラ山脈でのバチスタ政府へのゲリラ戦に入り、ついに革命を成就させる。首相に就任後、61年に米傭兵部隊がヒロン浜に侵攻した事件を経て、米国とソヴィエト連邦の核戦争の瀬戸際にまでいった62年10月のキューバ危機、チェ・ゲバラのボリビアでの戦死、ソ連の代わりでのアフリカへの介入、ソ連の崩壊による援助停止による未曾有の経済・外交の危機、政権要職者の規律違反や造反などの数々の難しい情勢を乗り越えて来た、いわば50 年のキューバ現代史を秘話に近いことまで語らせている。
さらに本書の魅力は、その間に対峙し、支援し、会見した世界各国のトップたち、フルシチョフ、ケネディ、カーター、スペイン・フランスの首脳たちから、ラテンアメリカの指導者たちとの関わりと彼の人物観を縦横に引き出していることである。最後に、今日のキューバの問題として国際社会からいわれる人権その他の問題についてのカストロの主張、自身の人生と革命の決算、ポスト・フィデルのキューバはどうなるか?に至るまで網羅しており、自伝ゆえの自己正当化もインタビュアーの手腕でそう目立たない。キューバ現代史の極めて有用な史料になろう。原注とキューバを長年観察してきた訳者による巻末の解説も、理解を大いに助けてくれる。
(岩波書店 2011年2月 388・447頁 各3200円+税)
『ラテンアメリカ時報』2011年夏号(No.1395)より