1985年9月19日にメキシコ太平洋岸ミチョアカン州で起きた大地震は、350km離れたメキシコ市においても死者約1万人、負傷者3万人以上、412の建物が崩壊する大惨事となった。もともとアステカ時代の湖を埋め立てた軟弱地盤であったことが、被害を一層大きくした。この大地震を含め、メキシコでしばしば発生している地震が地殻変動に因るものであることはこれまで日本ではあまり知られてこなかったが,プレートが潜航することによって地殻活動が生じている点では日本と似た特徴を有している。
著者は地震学が専門で、京都大学防災研究所在勤中にメキシコ国立自治大学(UNAM) と共同研究を行い、1992〜98年にはJICAの長期派遣専門家として「地震防災プロジェクト」に参画、続いて98〜2006 年にはUNAM 地球物理研究所教授として滞在した。
Tectonicsとは、地球上の大規模な変形運動を意味し、現在では地震活動、地殻変動、火山活動やプレート沈み込み運動などを意味する。著者がメキシコ滞在中に見聞し研究したメキシコおよび中米・カリブの地震・地殻変動とテクトニクスと発生メカニズムの解説とその研究成果、太平洋を越えて伝播する地殻活動の比較と考察を紹介し、メキシコの地震研究機関と観測網の概況にも言及している。
地震メカニズムに関する専門書であるが、1960年と2010年のチリ大地震で発生した津波が20数時間後には日本沿岸に押し寄せたことや、メキシコ大地震の軟弱地盤での被害を考えると、メキシコや中米地域の地震のメカニズムを知り、比較することは日本近海でのテクトニクスを解明し、防災を考える上で大いに学ぶべき点は多い。
(京都大学学術出版会 2011年5月 191頁 3400円+税)
『ラテンアメリカ時報』2011年秋号(No.1396)より