『検証・チリ鉱山の69日、33人の生還—その深層が問うもの』 名波 正晴 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『検証・チリ鉱山の69日、33人の生還—その深層が問うもの』 名波 正晴


チリの鉱山落盤事故で地下688mに閉じ込められた鉱山労働者33 人の救出劇の、日本人による初めての記録。著者は当時共同通信のリオデジャネイロ支局長、2010年2月27日のチリ大地震の取材に、アルゼンチンからアンデス越え陸路で取材に入った経験をもつ。2010年8月22日、チリ北部サンホセ鉱山での落盤事故から17日目に作業員33名の生存が確認されたとの報に現地へ入った。以後チリ政府と国営銅公社(コデルコ)による69日に及んだ救出活動の結果、10月18日に33人全員が地上に戻るまで取材を続け、その後も何人かの作業員にもインタビューしている。

著者は単に救出活動の状況レポートだけに終わらせず、2010年の地震時にデータ誤解によってバチェレ大統領が誤って津波警報解除を宣言し、多くの犠牲者を出したこと、地震後の国内連絡網や配送網寸断、国際社会からの救助・支援受け入れの逡巡により、各地に生活物資略奪が起きたことを指摘し、ブラジルに戦後移住した筑豊炭坑離職者の困苦体験にも言及している。救出をめぐる政府首脳とコデルコの打算、救出方法をめぐる民間専門家との主導権争い、閉ざされた坑内での正社員と下請け労働者との確執、中小鉱山経営者の意識、労働者の家族愛といくつかのエピソードから、チリ近代史における銅産業の概説まで、多岐にわたっている。ラテンアメリカでの取材の第一線に立った著者ならではの、幅広い情報の披瀝である。

(国を挙げての救出の経緯と背景となるチリの鉱業事情については、時報2011年春号特集「南米の鉱業」の「鉱業大国チリの現状」(神谷 夏実JOGMECサンチャゴ事務所長)参照)

(平凡社 2011年8月 270頁 1900円+税)

『ラテンアメリカ時報』2011年秋号(No.1396)より