『天空の帝国インカ — その謎に挑む』 山本 紀夫 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『天空の帝国インカ — その謎に挑む』 山本 紀夫


アンデス高地の主食ジャガイモを中心にその農業文化から、近年はヒマラヤ、アフリカ高地などとの比較研究を精力的に行ってきた民族植物学者が、長年の現地調査の蓄積からインカを支えた農耕文化の解明とその精神世界を究明した解説書。

先行したアンデス文明の遺産とインカの起源から説き始め、高地に集住した理由、高度差や地域差を利用し、巧みな貯蔵と配分システムにより、飢える者がいなかったインカ帝国、スペイン征服者達を驚かせた優れた農耕文化、様々な異形の対象への「ワカ」信仰による多様性をもった精神世界、最後に「白い人間」になぜ帝国は滅ぼされたかを述べ、カトリック化された今も生きる「異形の神々」を紹介している。新書版ながら、著者の膨大な現地調査と研究の裏付けの存在を感じさせる、内容の濃い、しかし平明な解説書である。

(PHP研究所(PHP 新書) 2011年7月 237頁 720円+税)

『ラテンアメリカ時報』2011/12年冬号(No.1397)より