著者は医師としてボリビア中東部で働く傍ら、地方紙の記者として1967年10月9日に知人からゲリラ活動を行ってきたチェ・ゲバラが死亡したとの報を受け、東部の町バジェ・グランデに駆けつける。ヘリコプターから下ろされたチェの遺体に触れ銃創を見て、前日の戦闘で死んだという軍の発表が偽りであり、この日に至近距離から射殺されたことに気が付く。殺到したメディアにその見解を暴露したことから、軍に狙われ亡命し以後沈黙を通すが、1980年代にボリビアが民主化されて以降、ボリビア国内はもとよりアルゼンチン、キューバなどで精力的に当時の目撃者、関係者へのインタビューを行い、資料を収集してまとめ上げ、2007年に発表したのが本書である。
「第一部ゲバラ、その死の真実」は、キューバ革命が成就しカストロ政権の要職に就いていたチェが、フィデルに決別の書簡を残してボリビアに潜入し、革命闘争を開始し、米国の支援を受けたボリビア軍に追い詰められ、ついに戦闘中負傷して捕虜となり、翌日抹殺されるまでを時刻を追って詳述し、米国政府の要求で、証拠品として両手先とデスマスクの保存についてまで記している。「第二部ゲバラの生涯」では、チェのアルゼンチンでの誕生から、青年時代の南米旅行、喘息持ちのこと、メキシコに渡ってフィデルに会い、ともにキューバ革命を成し遂げるまでを、時に彼の家族との生活にも触れ、チェの人となりを紹介している。
チェ・ゲバラについては、これまで彼自身の著作・日記の翻訳や彼について書かれた解説書など、日本語で著された本だけでも50冊近いが、ボリビアでの最後の日々を克明に記録したものとしては類書にない。著者の、チェの最後の真相に最初に気が付いた歴史の証人としての義務感に裏付けされた迫力あるドキュメンタリ−である。
(服部綾乃・石川隆介訳武田ランダムハウスジャパン2011年7月478頁2200円+税)