国際貿易投資研究所(ITI)では、平成20年度から「ブラジル研究会」(委員長−堀坂上智大学教授)を設け、一連のブラジル分析を行ってきたが、本書は平成22 年度の成果を纏めたものである。ちなみに、これまで出された報告書は、『ブラジルにおける成長産業の動向と消費社会の到来』(2008年3月)、『ブラジルの消費市場と新中間層の形成』(09年3月)、『新興国ブラジルの対外関係−世界金融危機を踏まえて』(10年3月)で、本書は4本目に当たる。
国営企業と外資系企業が産業の中で大きな役割を果たしてきたとの印象が強いブラジルだが、近年は民族系民間企業が合併・買収なども活発に行って規模を拡大し、国内市場のみならず国際市場においても日本企業のライバルとなり、あるいはパートナーとなる事例も出てきており、軽視出来ない存在になってきている。
本書は、このブラジル民族系企業の現代の姿を焦点に、第1章でその概要と展開を概説し、ブラジルの産業が政府系企業と外資系企業、民族系企業の「3つの脚」で支えられていたのが、近年の公営企業民営化によって「2つの脚」になったこと、企業ランキング調査結果からの主要企業の交替、さらに世界金融危機以降のM&A件数などに見る変容を示し、最後にBNDES(国立経済社会開発銀行)の主要部門投資予測とPDP(生産性開発計画)における強化分野を例に将来の姿を示している。第2 章ではブラジル企業の海外戦略を取り上げ、ブラジル企業の急速な国際化、海外事業戦略を紹介し、いまやラテンアメリカ最大の石油メジャーとなったPetrobras、M&A を繰り返して今や食肉メジャーに躍進したJBS、世界第3 位の旅客機メーカーに成長したエンブラエール、これもラテンアメリカ最大のバス車体メーカーのマルコポーロ、南米のみならずアフリカへも進出している建設大手のオデブレヒトを事例として紹介している。参考資料として32 社からなる「企業ファイル」をつけているが、多国籍企業化しつつある民族系企業を中心に主要政府系3社を加え、企業規模、沿革、国内内事業活動、経営の特色、主な子会社群を同じ様式で列記していて、極めて有用なデータである。
((財)国際貿易投資研究所 2011年3月 61頁 頒価2000 円(申し込みは同研究所 itipost@iti.or.jp))
『ラテンアメリカ時報』2012年春号(No.1398)より