日本でラテンアメリカ文学の訳書はかなり多く刊行されているが、そのほとんどはスペイン語圏のものであり、ブラジル文学の翻訳出版はかなり少ない。しかもブラジル文学全般について概観した解説書となるとほとんど見かける機会はなかった。本書は二人のブラジル国立フルミネンセ大学留学経験をもち、精力的にブラジル文学を紹介してきた研究者と翻訳者が、ブラジルの文学を、ブラジルの歴史からその起源、欧州の模倣であるバロック主義、ロマン主義との過渡期であるアルカディズム主義、奴隷解放と帝政崩壊の兆しを背景にした自然主義・写実主義、19世紀末の共和制樹立を背景に優れた詩人を出した高踏・象徴主義、カヌードス戦争勃発を背景に20世紀の幕開けとなる前近代主義、二度の世界大戦の合間に各地で多くの小説家、戯曲作家を生んだ近代主義、第二次大戦後から現在に至る新近代主義・ポストモダン以後の現代ブラジル文学の特色から文学と映画・テレビに至るまで、ブラジル史の展開に対応した文学の変容を詳細に解説したブラジル文学小史と、アレンカール、マシャード・デ・アシス、ジョルジェ・アマード、グラシリアーノ・ラーモスという4人の作家を選んで考察している。
巻末に文学史年表、日本での主要翻訳作品案内とポルトガル語・日本語索引を付けてあり、ブラジル文学の概観を歴史的に知りたい読者には便利な解説書である。
(国際語学社2011年6月 320頁 2500円+税)