カトリック教徒が圧倒的に多いメキシコで、骸骨の聖母サンタ・ムエルテ(死に神)を信仰する人達がいて、その扮装や飾り物が結構売られている。民衆の中に秘められた土着信仰なのか?新興宗教なのか?犯罪組織のオカルトなのか? 骸骨姿の聖母信仰に癒しと救いを求めるメキシコ人の精神生活と、そこから溢れ出る多様な図像表現を、メキシコ美術研究の第一人者が紹介したものである。
まずサンタ・ムエルテの外見、呼称を示し、西欧、先住民文化、かつての主要銀山サカテカス鉱山、アフロ・キューバ、南米等が起源だとする様々な説を紹介して、現在のメキシコ市で危険な地域といわれるテピートの住民が果たした役割、外見は異なるが「麻薬聖人」とのコンセプトの共振性に言及している。次いでサンタ・ムエルテ像のポーズ、大きさ、色、付属物を紹介し、そこから像の素材、祭壇構成の基本要素、祭壇の仕様と供物の準備、そしてサンタ・ムエルテとの「接続」のための儀式、各種の願い事に応じた祈祷文言(oraciôn)を紹介している。
当初美術研究者として、図像学・記号学で解明しようとしたサンタ・ムエルテだが、西欧中心的世界観では分からない、骸骨姿の聖母に生きるためにすがるメキシコ人の死生観の一端が窺える。各地様々なサンタ・ムエルテ像を訪ねた時の状況や印象を綴った「訪問レポート」10編が挿入されており、まさしく現代メキシコのスピチュアル・アートの興味深い探求記。
(新評論2012年3月156頁2000円+税)