『タキ・オンコイ 踊る病 -植民地ペルーにおけるシャーマニズム、鉱山労働、水銀中毒』 谷口 智子編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『タキ・オンコイ 踊る病 -植民地ペルーにおけるシャーマニズム、鉱山労働、水銀中毒』  谷口 智子編 


1560~70年代のインカ帝国征服直後のアンデス諸国で銀鉱山が発見され、銀採掘ブームとなり、先住民を強制徴用する「ミタ制」が行われるとともに、精錬のための「水銀アマルガム法」が取り入れられた。表題の「タキ」はケチュア語で歌い踊る、「オンコイ」は病のことだが、当時先住民の間で「アンデスの先祖古来の信仰に戻れ」という運動の名としてスペイン人司祭に記録された。これがカトリック布教の妨げになると根絶が図られたのだが、「タキ・オンコイ」が宗教運動なのか、民俗舞踊なのかは見方が分かれる。編者はスペイン統治時代の記録で震えや描写から水銀中毒症状と疑い、水俣病研究者(中地繁晴熊本大学水俣学現地研究センター長)に水銀中毒症状を、歴史学者(立岩礼子京都外国語大学教授)にローマ時代から20世紀に至るまで続いた水銀鉱山労働とその中毒を、ペルーの医師・人類学者(サンタマリア・ファレス国立サン・マルコス大学教授)に16世紀ペルーにおけるタキ・オンコイについて検証を依頼するとともに、宗教史における水銀と鋏踊りなどのシャーマニズムを編者が紹介し、歴史の闇に埋もれたタキ・オンコイが、スペイン宗主国に莫大な富をもたらした銀生産のための水銀によってインディオの血肉を吸っていたことを示唆している。歴史の闇を明らかにした興味深い研究書。
編者は宗教学、ラテンアメリカ地域研究を専門とする愛知県立大学外国語学部教授。

〔桜井 敏浩〕

(春風社 2023年2月 327頁 4,700円+税 ISBN978-4-86110-826-6)
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年夏号(No.1443)より〕