米国の冒険家にしてスタンフォード大学で博士号を取り大学で教鞭も取る、『ナショナルジオグラフィック』誌の元専属探検家で、現在はアラスカに家族とともに住む著者の息子ローマンもまた幼少の時から父とともに過酷な自然の中で経験を積んできた。ローマンは26歳でアラスカの大学院を休学し、ラテンアメリカ各地に滞在、冒険を続けていたが、2014年7月に5日間の予定で単独でコスタリカのジャングルに分け入り消息を絶った。家族は直ちに現地に赴き必死の救助活動を開始する。その前に訪れていたグアテマラ、ベリーズまで直前にローマンと会った人たちや宿泊したホテル、旅の装備を調えた店を訪ね、ヘリコプターを使って空からも探索する。失踪事件で事件性がないと動かない米国FBI、麻薬売人と関係していたと決めつけるコスタリカの警察は国立公園内のトレイル探索を阻止しようとする。他殺だとする情報を持ち込む者も出てきたが、著者たちの息子の足跡をつぶさに調べて決して諦めない探索によって、ついにローマンの遺品のバックパックが見つかり、遺骨と所持品のほとんどを回収することが出来た。外傷もないことから死因は毒蛇に噛まれたか倒木の下敷きになったためと推定された。
息子の失踪後2年にわたる父と家族の必死の捜索、息子への思い、家族への責任に煩悶する姿がコスタリカのジャングルの様子と交差し、読む者の心を打つ。
〔桜井 敏浩〕
(村井理子訳 亜紀書房 2023年4月 485頁 2,500円+税 ISBN978-4-7505-1784-1)