コロンビアといえば、魅力ある国であり、2002〜10年のウリベ政権下で見違えるように治安が回復したにも拘わらず、麻薬カルテル、左派ゲリラ、軍警とパラミリタリー(準軍事組織)の三つ巴、四つ巴の暴力が蔓延し、誘拐・殺人も日常茶飯事の治安が悪く極めて危険な国とのイメージが持たれている。一般犯罪のみならず、これまで政治的ビオレンシア(暴力)が長く蔓延ってきたのは、建国の英雄であるシモン・ボリーバルとサンタンデールの二人の政治思想の対立にまで遡るとされており、その後19世紀から20世紀半ばまでの保守党と自由党の二大政党対立の時代を経て、20世紀後半からゲリラ組織と麻薬カルテルによる政府軍警とのゲリラ戦争、麻薬戦争で多くの市民を巻き込んだ暴力が横行した。
著者は、長い財務省在勤の間に在アルゼンチン大使館に出向勤務し、国税庁長官を最後に退官した後、2007年から10年の間在コロンビア大使を務めた。政治史、社会史の両面から二大政党対立時の政治的ビオレンシア、ゲリラとの戦争、麻薬戦争および一般犯罪による暴力横行を分析し、これまでのビオレンシアの時代でも、ハイパーインフレ、債務不履行を起こすことなく経済は健全に運営され、ポピュリスト政治家が出てくることなく一貫して民主主義が行われてきた国であることを明らかにしている。副題はかかる実態をみようとしない、コロンビアに取り憑いた誤ったイメージを払拭したいという願いを込めて付けたという。
(アジア経済研究所 2011年11月 299頁 1500円+税)
『ラテンアメリカ時報』2012年夏号(No.1399)より