『アンデス世界 — 交渉と創造の力学』 染田 秀藤・関 雄二・網野 徹哉編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『アンデス世界 — 交渉と創造の力学』 染田 秀藤・関 雄二・網野 徹哉編


内外の歴史学・人類学・考古学者が,多様な先スペイン期から植民地時代にかけてのアンデス世界で生じたコンフリクト言説の過程の真相を探求、考察した研究報告集。第一部「歴史の語り方、語られ方」はスペイン征服者側の記録であるクロニカ文書とインカ史再構築、インカ国家と周辺民族との対立、征服史の語り方、カトリック強制による“魂の征服”を行った修道士の眼差しから見た歴史再考等、主に外国人研究者の論考から成る。第二部「交渉と創造の社会史」は、近年のクロニカ再検証から、17世紀の文書製作者の実像、公証人帳簿と権力の関係、先住民の訴訟文書、伝統的首長の行動、「リマのサンタ・ロサ」大聖堂建設過程から植民地社会思想とインディヘニスモの抗争などを読み取ろうとする。第三部「コクフリクトのアルケオロジー」は、新たな考古学研究方法の登場により、考古学の総合的な検証と現代の民族誌事例による当時の「戦争」観や都市と周辺部の関係などについて考察している。高度な専門書だが、アンデス文明史を知る上で知的刺激に富んだ論考ばかりである。

(世界思想社 2012年4月 448頁 3900円+税)

『ラテンアメリカ時報』2012年夏号(No.1399)より