『暴力の教義』 ボストン・テラン - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『暴力の教義』 ボストン・テラン


1910年、殺人常習者ローボーンは米国テキサス州で密輸武器を満載したトラックを強奪するが、逮捕されて古い付き合いの弁護士の仲介で合衆国捜査局との取り引きで、メキシコに居る武器購入者に若い捜査官ルルドとともに運ぶことになる。実はルルドはローボーンが捨てた妻子の息子なのだが、父の方は気付いていない。二人はトラックを運転し、メキシコとの国境を突破して、注文主の関係者に接近する。元テキサス・レンジャーでタンピコ油田の警備会社を経営する男の指示で、トラックを貨客列車に積み込むが、途中で蜂起した農民集団に襲われたものの、何とか油田近くの町まで辿り着く。

そして武器の引き渡しをめぐって、警備会社経営者と市長、それらの配下の得たいの知れない男達、ローボーンらの間の駆け引きと血生臭い闘いが起きるが、石油利権をめぐる勢力の存在に気が付いて、武器を農民蜂起グループに渡し一部をくすねたルルドとローボーンの脱出を阻止しようとする追っ手との凄惨な闘いの末、親子関係に気付いた父は息子に許しを請いながら死に、ルルドはあの武器が農民に渡して油田操業に危機感をもたせて米国の軍事介入の口実にしようとしていた会社と米国領事館員も絡んでいたことを知る。

メキシコ革命前夜の米国との国境地帯と油田地帯を舞台にした暴力の世界を描いた時代を描きながら、背後にはメキシコのマデロ政権をクーデタで倒す際には支援したウェルタを、後にはメキシコの不満分子を煽って政権転覆を画策する米ウィルソン大統領の石油利権を考えた戦略があることを示唆している。

(田口俊樹訳、新潮社(文庫) 2012年9月374頁670円+税)