【演題】「目が離せない最先端『実験国家』チリの動向」
【講師】渋谷 和久氏 駐チリ共和国特命全権大使
【日時】2023年7月26日 10:00~11:30am(日本時間)
【場所】リモート
【参加者】104名
渋谷大使は「実験国家」というキーワードによって、視聴者が有するチリのイメージをクリアにされた、と言えよう(説明資料を協会ホームページに掲載するので参照されたい)。
大使はまず、チリは、海洋国家であり「島国」的環境を有し、人種的構成からラテン的ではなく、勤勉で真面目な国民性であり、日本国・日本人と共通するところがあるという特徴を指摘された。
チリの「実験」については、以下のような歴史的経緯を挙げられた。①民主的手続きにより社会主義政権(アジェンデ政権)が誕生、②軍事クーデターで成立したピノチェト政権が前政権とは真逆の新自由主義政策を導入、結果としてチリは中南米の優等生となる、③ピノチェト政権は自ら設定した国民投票で否決されて潔く退き(1988)、民政移管を実現(1990)、④2019年に新自由主義経済に取り残された若者を中心とする人々の不満が爆発して騒乱となり、2020年に新憲法制定に関する国民投票を実施(チリは「国民投票」を重視)、2021年制憲議会選挙で左派が多数を占め、2022年3月に現ボリッチ政権が誕生、新たな「実験」の気配をみせた。
しかし、ボリッチ大統領はその公約で示した経済政策、社会政策、外交・安全保障政策等で挫折、左派中心の制憲議会による新憲法草案も国民投票で否決され、政策は中道路線にシフトすることとなった。そうしたチリの新たな「実験」として大使は、①環境、②グリーンエネルギー、③リチウム、④デジタル、の各分野で先進国となること、を挙げられた。
2023年7月17-18日に開催されたEU-CELAC Summit 2023にて、ボリッチ大統領が『国際法を制限なく尊重』すべきで、『中南米諸国が、ウクライナにおいて起きていることは、国際法に違反する受け入れられない帝国的侵略戦争であると明確に述べることが重要である』とロシアのウクライナ侵攻に対し断固たる姿勢を見せたとのご説明があった。
講演後の質疑では、中国に対するスタンス、日本とのEPAの現状、新憲法制定プロセス等の質問に対して丁寧にお答えいただいた。