国際社会における米国の影響力が低下し、もはや軍事力や経済力というハードパワーだけで相手を圧倒する時代ではなくなったとの反省から、1989 年にハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が提唱したのは、 相手が従いたくなるような文化、政治的価値、外交政策の3資源から構成されるソフトな力でというソフトパワーという概念だった。本書はこれを多文化共生と平和構築のために、南北アメリカ地域と日本を分 析対象に「平和構築jを目指して、経済力と文化力の2側面から政治・経済・社会・文化・哲学・教育・国際関係と多角的にソフトパワーによる平和構築の可能性を考察しようとしたものである。
人間安全保障を調う ODA を含む日本独自のソフトなパワーの源泉から始まり、ハードパワーを認識し ながらもソフトなパワーが優勢となるような地球社会の枠組み、スペイン・ポルトガルと旧植民地の文化的つながりを考察し、合弁事業や技術協力を通じたブラジル、考古学調査を通じてのペルー、タンゴを通 じてのアルゼンチンとの関係を紹介した後、ソフトなパワーとしての日系人の役割をメキシコ、ブラジル、アルゼンチンの日系人が明らかにしている。日本が不平等条約改定交渉で苦労している時に初めから平等条約を締結してくれたメキシコ、アルゼンチン、ペル一、チリの駐日大使が外交関係を通じての平和構築を述べ、最後に編者がソフトなパワ一による対等な関係で互いの文化を尊重して平和への知恵を出すことを提唱している。
(行路社2012年3月362頁2800 円+税)