1980 年代半ば、21 年間に及んだ軍事政権から文民政権に移行したものの、ハイパーインフレや対外債務危機で経済危機に陥り混酸していたブラジルが、今は「新興国」の雄ともて噺され、BRICS の中でも最も政治リスクの小さ い国として評価されている。
1964 年の軍事政権の発足とテクノクラートに主導された経済発展と破綻による軍部の退出、80 年代から 90 年代前半にかけての文民政権時代の政治混乱と経済危機を経て、中道左派のカルドーゾ政権によりインフレを克服して現在の成長軌道の基礎を作ったが、その後継政権が左派労働者党ルーラ大統領であったにもかかわらず、財政政策、対外経済関係は維持され、著しい経済発展を実現して2期8年の最後まで高い支持率のまま任期を終え、その政権を支えてきたジルマ・ルセフ女性大統領が継承して好調を維持している。その背景には、民政移管当時から国のかたち、選挙制度、文民統制、民営化、外資導入や金融安定化システムの構築、政府・企業・市民社会の協働。貧困克服策の実施、教育改革等の制度設計改革が積み重ねられてきたことを指摘している。さらに姿を変えた資源大国として、国際プレゼンスが高まり、国際化が進展するブラジルの現在を生き生きと描き、終章で遠くても近い国にと日本・ブラ ジルの重層的関係と相互補完関係を超えた新たな結合を提起している。
本書は 1978 年からの日本経済新聞サンパウロ特派員から上智大学に転じ、一貫してブラジル政経を研究してきた 著者が、この四半世紀に民主化、債務国から債権国への転換、1995年以来3代にわたる大統領の下で劇的な変化を 遂げた発展の軌跡を、政治、経済、社会そして対外関係から分析し、分かりやすく解説したもので、変容著しい現在のブラジルを正確に理解するために、コンパクトながら核心をもれなく明らかにした優れた手引きである。
(岩波書古(新書)2012年8月218頁800円+税)