連載エッセイ264:新井賢一「南米コロンビア・雲と星が近い町 から」その15 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ264:新井賢一「南米コロンビア・雲と星が近い町 から」その15


連載エッセイ 261

南米コロンビア・雲と星が近い町から」その15

一般市民目線でのコロンビア左派政権発足後一年

執筆者:新井 賢一(Andes Tours Colombia代表 ボゴタ在住)

コロンビアの憲政史上初となった左派政権発足から一年。当初から予想していた通りこれまでとは異なる方向に進んでいる事を感じています。それは政治・経済・外交面など様々ですが、当地コロンビアに外国人として居住している立場から変化その他について投稿していきます。尚、私はこの国に外国人として居住していますが参政権はありませんので政府や政策を否定・非難する立場にはありません。

政治面では予想通り隣国ベネズエラを含む同じ左派政権国との関係を重視しています。南米各国の左派政権にある程度共通しているのが対外的発展よりも内政重視であり、ペトロ現政権も例外ではありません。その事もあるのか、長年続いていた中道右派政権と比較して少なくとも一派市民目線からすると国外からの大型投資呼び込みの話は殆ど聞き及びません。2026年までの4年間では経済的国家発展よりも内政重視の政策は続くものと思われます。

画像は大統領府中庭です。ペトロ新政権発足後、史上初めて一般市民に大統領府中庭を開
放した時期があり私もツアーガイドとして初めてこの場に立ち入る事が出来ました。大統領の意向があったのでしょう。現在中庭はおろか一般市民が左画像に見える大統領官邸に近づく事は出来ません。この画像はある意味貴重なものになったのかもしれません。

コロンビア国内の経済動向につきまして、こちらは大局的数字ではなく一般市民の立場で日々目や耳に入ってくる情報として投稿します。一般市民の生活に直結している日用品の価格は様々な要素が重なり日々上昇を続けています。昨年2022年のコロンビア国内スーパーチェーン売上のトップは昨今急激に店舗数を増やしているディスカウントストアD1、第二位は大型店舗形式により国内で長年トップクラスの売上を続けているexito、第三位はこちらもディスカウントストアとして国内で成長を続けているara、トップ3のうち2つは小規模店舗形式により全国展開しているスーパーチェーンです。

先日首都ボゴタにて複数のスーパーを視察する機会があり、各社店舗内を見学しました。はっきりしたのはいわゆる大型店舗内の客数はどこも少なめであり、コロナ禍前に見られた数日分から一週間程度分をまとめ買いするという購買層が殆ど消えてしまったように感じられました。対して前述のD1やaraなどはレジ前に並ぶ列が長く、日用品の購買はもはやまとめ買いではなく安いものを必要な分だけ買うというスタイルに完全に変わっているように思います。加えて前述の2つのディスカウントストアはいずれも自社ブランド・若しくは他では販売していない独自ブランド(PB)品の取扱を主にしている事から、既存の国内メーカーの製品よりも価格面で圧倒的に安いPB品を購入・使用する事に抵抗がないように見えます。

それが影響したのか、前述の国内第二位の売上規模を誇るexitoの株式を持つフランスの小売業界大手Casinoグループがexito株売却の意向を発表し激震が走っています。報道ではCasinoグループにとってexitoへの関与は既に重荷になっていたようです。

今年第二四半期から数字として顕著になってきているのは、新規住宅販売登録数・新車販売登録数いずれも大幅に落ち込んでいます。画像に見られるいわゆる高級車は辛うじて売上を維持していますが、大衆車の売上はかなり減少しているようです。

現政権、大統領と副大統領はかねてより地下資源採掘・開発には強く反対の立場である事から、それまでの政権が続けていたガソリン店頭販売価格に関する政府補助金支出を段階的に削減する政策を決定しており、それに基づきガソリン価格は毎月上昇を続けています。この事も新車販売台数減少につながっているのかもしれません。

また、多少とも関係性はありますが昨年まで続けられていた年2-3回程度の消費税に相当するIVAの一日限定免税特例日を現政府は実行しない方針で、例年ですとIVA免除の日にはテレビその他家電製品などが飛ぶように売れ、その日の国内での販売取引額が相当なものになりました。その特例廃止により消費動向的にも軟弱感を感じます。

私が関係している「旅行業界」関連ですと、今年上半期について外国人観光客の来訪数は前年2022年比で約20%超の増加となっています。ペトロ大統領が以前唐突に「原油の売上減少分は観光関連での外貨消費で補おう」と表明した効果は今の所全くありませんが、先日まで続いていたドル&ユーロ高・コロンビアペソ安により外国人にとってコロンビア旅行滞在費用に割安感を感じた事、コロンビア非居住者が観光目的で入国した場合、宿泊代金にかかる19%のTAXが免除される特例が現在も継続している事が影響しているかもしれません。

他方、コロンビア国民にとってはこのホテル宿泊税免税が昨年をもって廃止された為、今年から前述の19%が丸々課税されている事、コロンビア国内の航空運賃が燃料費高騰その他複数の要因により相当値上げがされている事から、今年上半期の自国民のコロンビア国内線利用者数は大幅な減少となりました。

治安面についてもかなり変わってきています。但しこの件についてこの場で私見を申し上げる事は私の身にも関わりますので避けたいと思います。

コロンビア史上初の左派政権が誕生してからはや一年、ある程度予想はしていましたが現在のコロンビアは成長よりも軌道修正・若しくは過去の清算に重きを置いているのがはっきりと分かります。