1980年代、暴力革命を謳うセンデーロ・ルミノーソと、その指導を受けている過激青少年テロリスト集団の“土くれ”が猛威をふるうアンデス山中の集落ナッコスで、部下のトマスとともに二人だけで駐在する治安警備隊伍長のリトゥーマは、立て続けに行方不明になった3人の男たちの消息が気になって仕方ない。事情聴取をしても先住民族の村人達や町から流れ着いた酒場の主と占いをよくし悪霊を操るというその妻は、黙して語らず山の神々が隠したというのみである。助手トマスは元の雇い主の麻薬密売人を殺し、一方的に惚れ込んだその愛人メスセーデスと駆け落ちしたが女に逃げられ、逃亡中の蜜月の日々を毎夜回顧しリトゥーマに話すだけで、周囲に関心を持たない。やがて、近くの鉱山を“土くれ”が襲撃、略奪をはたらき、その被害調書の作成を頼まれて出張った伍長が、帰途山津波に遭い奇跡的に助かってナッコスに戻るが、建設中の道路もかろうじて操業していた鉱山も山津波により壊滅し、仕事を失った集落の人間が去っていく中で、メルセデスが悔いてトマスの元に帰り、二人に番所の寝室を譲って酒場に赴いたリトゥーマは、酒場の主夫婦と酔いどれた鉱夫から、ついに3人が村人たちによって殺され、屍体はおぞましいやり方で姿を消したことを知る。
アンデス山中にはびこる古来の迷信、伝承が語り継がれる世界と、センデーロの暴力などの残酷な現実の中で孤立して任務に従事するリトゥーマ伍長の迷いを、トマスの数奇な恋愛のいきさつと交叉させた語り口は、リョサならではの世界といえるだろう。リョサが1990年のペルー大統領選挙でフジモリに敗れた後に最初に書かれた長編小説(93年発表)。
(木村 榮一訳岩波書店2012年11月378頁2400円+税)