『ピダハン −「言語本能」を超える文化と世界観』 ダニエル・L・エヴェレット 屋代通子訳 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ピダハン −「言語本能」を超える文化と世界観』 ダニエル・L・エヴェレット 屋代通子訳


アマゾン奥地にひっそりと住むピダハン族とその周辺の部族への布教のため1977年に入り、その後30年にわたり研究を続けた言語人類学者による研究の記録と成果。

ピダハンはアマゾンの奥地に暮らす400人を割るという少数民族だが、ピダハンの文化には、「右」「左」や数の概念、色の名前さえも存在せず、世界のほとんどの民族が持っている「神」の概念も部族の創世神話もなく、しがたいそれらを表現する言葉もない。生き抜くためには必要でない言葉、表現を持たず、神話や信仰などに関心を示さないが、十分満たされた生活と豊かな精神世界をもつ彼らの社会は、これまでの言語学の定説をも覆すものであり、彼らの文化が数百年も外部の文明の影響に抵抗できたのはまさしくそれが理由だったとのではないかと考えさせられる。我々が知らず知らずに身についた西欧的な普遍性からの見方、価値観が、それとはまったく異にする頑固な哲学をもったいわゆる“未開文明”であるピダハンの世界観に崩される過程を、著者は30年続いた奮闘も交えて、驚きと笑いで語っているが、そもそもは、キリスト教の新教福音派の伝道師として彼らの集落に入った著者であるが、ついには信仰を見失い無神論者になってしまうという衝撃的な内容をもつ。

(みすず書房2012年3月 408頁 3400円+税)