『夜明け前のセレスティーノ 新装版』 レイナルド・アレナス - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『夜明け前のセレスティーノ 新装版』 レイナルド・アレナス


『めくるめく世界』(邦訳:国書刊行会 2012年)で知られる1943年キューバ生まれの作家で、1959年のキューバ革命後の1965年に本書で作家デビューしたが、翌年発表した本書とともに出版許可は下りなかった。秘密裏に持ち出された原稿の仏訳がキューバ政府に無断で出版されたことからカストロ政権下で立場が悪くなり、政治的圧迫と同性愛への不寛容から逃れるため1980年に米国に亡命、1990年にニューヨークで自死した。

筋書き紹介するのは容易でないが、キューバの寒村で生きる貧乏な一家の現実と未分化な世界、暴力的な祖父が君臨し、意地悪な祖母、怒ってばかりいる母、葉っぱや木の幹に詩を書き連ねる従兄のセレスティーノがいる、ぼくを取り巻く悲惨な生活を少年の目から綴っている。妖精や魔女とだって話ができる少年の意識は“夜明け前”の状態であり、祖父母も母もそれぞれその時々の気分によって様々に姿を変える。セレスティーノとて未分化な少年の意識が生み出した分身かもしれない。すべての登場人物は少年の想像力の中で、あるキューバの生活を描いた文学。

〔桜井 敏浩〕

(安藤哲行訳 国書刊行会 2023年2月 325頁 2,600円+税 ISBN978-4-336-07468-3)