1987年に初版が出て、99年に新訂増補版が発行されて以来、四半世紀ぶり久々の改訂版である。80年代後半のラテンアメリカ経済危機、累積債務問題による長期経済成長の停滞の時期は、軍政から民政への転換、左右勢力の凄まじい中米での内戦が終結する一方で、ペルー、コロンビアでの左翼武装ゲリラの暗躍、ベネズエラでのチャベス政権の発足などがあった 90年代に続く 21世紀のラテンアメリカとカリブ諸国の多くで劇的な変化を生じている現在、13年振りに 50名の執筆者によりいくつかの新項目と 33か国それぞれの政治、経済の記述を加筆し、資料編・索引を充実させた改訂版が出たことは大いに歓迎される。
数多くの専門家を動員し、ラテンアメリカに関わるこれだけの基礎資料集を纏め、大部になって価格も決して安くない事典を上梓することは、旧版に加筆することを中心にせざるを得なかったとはいえ、編者、執筆者、出版者にとって大変なことであり、ラテンアメリカを総合的に知る類書が無い(かつてラテン・アメリカ協会から『ラテン・アメリカ事典』が 1996年版まで刊行されていた)今となっては、極めて有用な手元に置いておきたい手引き、情報源である。
構成は、「総論」として「多様性と創造性の世界」(大貫)、「イメージから対話へ」(落合)、五十音順で 428頁を当てた「項目編」、3地域と 33か国の自然・地理、住民・社会、歴史、政治、経済、日本との関係等の概要が分かる「地域・国名編」、そして基本的なデータ、略年表、文献リスト(桜井も追加・見直しに参画した)、URLリスト、世界遺産一覧表の「資料編」、「索引」から成る。
〔桜井 敏浩〕
(大貫良夫、落合一泰、国本伊代、恒川恵市、松下洋、福嶋正徳編 平凡社 2013年 3月 694頁 7,000円+税)
〔『ラテンアメリカ時報』2013年春号 No.1402〕