第?部では、19世紀後半から 20世紀初頭にかけてブラジル移住を推進した4人の実業家、すなわち岩崎久彌がブラジル東山農場を創設(柳田利夫)、渋沢栄一の日本人植民地の開設への関わり(黒瀬郁二)、武藤山治の移住は民間資金によるべきとの持論からの南米拓殖会社設立(山本長次)、貿易拡大などの日伯交流基盤構築に努めた平生釟三郎(栗田政彦)の業績をみることによって、単に移住を余剰農村人口の捌け口ではなく国策として育てようとする雄大な構想を描いた先駆者たちを紹介している。
第?部は、ブラジル移住事業を支えた金融・海運・国際関係として、移民を取り巻く金融制度の問題(高嶋雅明)、大阪商船の積極経営にも拘わらず業績は良好でなかった南米航路(谷ヶ城秀吉)、日本のブラジル移住開始の背景にあった米国との関係(木村昌人)という、日本人のブラジル移住でほとんど取り上げられてこなかった部分を検証しており、移住史の新たな、貴重な研究である。
(渋沢栄一記念財団研究部編不二出版2012年 8月277頁 3800円+税)