連載エッセイ265:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その48 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ265:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その48


連載エッセイ262

「南米現地最新レポート」その48

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「2023年8月6日発」

今週ベネズエラで電子タバコを禁止する法令が施行されました。

今年3月にブラジル・ウルグアイに次いでアルゼンチンも電子タバコの輸入・使用を禁じており、現時点で禁止されていないパラグアイはベネズエラにも劣後する不健康物資の使用を許可する国となった訳です。

パラグアイでの電子タバコVaper(又はVape)は、2008年に最初に輸入されてから爆発的に売り上げが増えており、2019年時点で300万ドルを超える金額が輸入されたとされており、現在は更に多くの喫煙者がこの嗜好品を常用していると思われます。

https://www.ultimahora.com/vapeadores-el-negocio-se-expande-y-ya-importa-usd-3-millones-n2824523

一方で加熱式タバコ(タバコの葉を加熱して吸引する)と電子タバコ(ニコチン入り液体を霧状にして吸引する)の両方を禁止する傾向は世界中で広まっています。

https://www.city.nara.lg.jp/soshiki/93/5997.html

ただ、パラグアイでは南米各国が禁止にした中古車の輸入販売も”憲法で保証された商活動の自由”という謳い文句で中古車販売業者がロビー活動を行っているために、いまだに多くの中古車が輸入・販売されています。電子タバコに関しては、健康への害毒の明確な基準が無いために、既に街中で多くの店舗が形成されている今、輸入や販売を禁止するのは簡単ではないかもしれません。しかし、2004年頃に屋内での喫煙が禁止された際は、南米各国がほぼ一斉に法律で禁止した経緯があり、今回のベネズエラの決定によってパラグアイも追随することになるとも予測されます。

ところで、先週の言葉amigoの中で、フェイスブックで新しい友達が出来たとご報告しましたが、その後も遣り取りを続けた結果、これがトンデモない詐欺アクセスであることが判明しました。本人から電話がかかってきて本物と思ったものの、その後いきなりイエメンの医療キャンプがアルカイダの襲撃に遭った、もう退役するが3年分の報酬を現金で受け取ったので、その引受人になって欲しい、という話になり、億単位の現金を国際宅急便で送るので受け取って欲しい、という話になって、コリャダメだと判断したものです。

2020年以降は世界的にマネロン規制が厳しくなって、普通の少額送金だって受取に手間と時間がかかるもので、それを宅急便で多額の現金を送るっていう発想からして明らかに偽物と判別できるということを知らない詐欺師。

著名な漫画家が国際ロマンス詐欺に引っかかったというニュースも見ていましたので、どんな手口でどうやって嵌めようとしているのか興味はありましたが、こういう輩とは接点を持たないのが一番ということで、連絡を絶ちました。インターネットの普及で詐欺の手口も国際的で複雑になっているように思います。

皆さんもくれぐれもお気をつけください。

「2023年8月13日発」

週明けの8月15日は日本では終戦記念日ですが、パラグアイでは首都アスンシオンの市制記念日で、1537年にスペインの植民地として市制が敷かれたのですが、これは豊臣秀吉が産まれたのと同じ年です。因みに織田信長は1534年、徳川家康は1543年生まれです。

https://visitaparaguay.com.py/lugar/555/aniversario-de-fundacion-de-asuncion#:~:text=La%20ciudad%20de%20Asunci%C3%B3n%20fue,del%20calendario%20oficial%20del%20pa%C3%ADs.

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2

この8月15日は5年に一度の新大統領就任の日でもあり、Santiago Peña氏が大統領に就任する式典が開催され、これに出席する為に台湾の頼清徳副総統が米国経由でパラグアイを訪問することになっており、日本でも中国政府の反発が報道されています。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/659709?display=1

この就任式には日本のメディアもパラグアイに特派員を派遣して取材に当たるようで、4月の大統領選挙以来、久々に日本のマスコミでパラグアイが取り上げられることになりそうです。

この週末はブラジル駐在の某新聞社支局長がフォスドイグアス経由パラグアイ入りし、同じく15日に就任するアルトパラナ県知事にインタビューを行い、それに同席する機会を得ました。

1978年11月生まれのSantiことPeña次期大統領は44歳、相当若い印象ですが、Landy Torres次期アルトパラナ知事は1982年7月生まれの41歳。Santiの次の大統領候補とも言われていて、パラグアイ第二の都市ブラジル国境のエステ市を含むアルトパラナ県をこれからどのように動かしていくのか?非常に大きな期待が持たれています。

https://www.lanacion.com.py/politica_edicion_impresa/2023/05/29/landy-torres-en-busca-de-inversionistas/

この記事にもある通り、次期知事はアルトパラナ県への投資促進を重要な課題としています。ブラジル国境でパラグアイ国内でも最も高い経済成長が期待されるこの地域への投資案件を如何に増やし、雇用を促進して経済を成長させるか?これが知事から大統領への重要なステップになるでしょう。高齢者集団と言える日本の政治家達とは異なり、若い子育て世代が次代を設計するパラグアイ政治、台湾との関係維持も含め益々期待できそうです。

ところで、今日の言葉siglo(=世紀)は、以下の記事から取り上げました。

8月11日がチパの日、ということで、パラグアイの国民食であるチパを祝う日、とのこと。と言っても、そもそもChipaが何なのか日本の皆さんにはイメージできないでしょう。チパというのはマンジオカ(ユカ芋=キャッサバ)デンプンの粉とチーズを混ぜて焼いたパンのような食べ物で、パラグアイではどこでも売られています。

https://pukupukuch.hatenablog.com/entry/chipafacil

この記事によると、パラグアイでは500年も前からチパが食べられているとのこと。ということは、スペイン人が入植して最初に口にしたパラグアイ料理が今でも形を変えずに伝統食として残っているということでもあります。500年の歴史を持つ伝統食を片手に、若い政治家と百年の計を語ることが出来るパラグアイ、面白いです。

「2023年8月20日発」

先週もお伝えした通り、8月15日アスンシオン市制記念日と同日に行われた大統領就任式で、正式にSantiago Peña氏が第52代パラグアイ共和国大統領に就任しました。

この日は朝7時過ぎに先ず国会が召集され、ここでMario Abdo Benitez氏が大統領の象徴である飾り帯を上院議長に返却する式典が行われました。

次に8時過ぎから大統領府Palacio de LópezでPeña新大統領の就任式典が開催され、僅か1時間の間に権力の継承が執り行われました。

これによりSantiago Peña新政権が発足、パラグアイの新たな時代が始まりました。

Peña氏は就任演説の中で、「権力はそれを手にすることが目的ではなく、国民の繫栄を必現するための手段に過ぎない。(El poder no es un fin en sí mismo. Es un medio para alcanzar la prosperidad de los pueblos.)」と述べ、更に「政治は社会正義を実現するための重要な道具である。(La política es su herramienta indispensable para conquistar la justicia social, atravesando un territorio minado de hostilidades, prejuicios y exclusiones.)」として、権力の濫用を戒め、政治の目的を明確に示す決意を表明しました。

https://www.lanacion.com.py/gran-diario-domingo/2023/08/20/el-inicio-de-una-nueva-era/

この演説に関しては、過去の失政をも正当化するもの、との批判もありますが、生放送で演説を聞いていた限り、新大統領の言葉を信じてみたいという期待を抱かせる名演説であったように感じました。

https://www.ultimahora.com/aseguran-que-paraguay-nunca-fue-superpotencia-con-pasado-dorado

世界中で政治の劣化が進むと言われる中、国民の平均年齢27歳という若い国家を44歳の若いリーダーが率いて行く様子を観られるのは大いに愉しみなこととも言えます。

因みに日本の平均年齢は48歳、世界最高齢の国という位置付けですから、政治家が高齢者ばかりなのも仕方がないのかも知れません。

https://www.worlddata.info/average-age.php

因みにPeña新大統領は高校生の時にLeticia Ocampos現夫人との間に長男Gonzalo氏を儲けており、Gonzalo君は今年27歳で5月にお嫁さんを迎えたという兄弟の様に若い親子。

若い国の今後の発展に期待が高まります。

「2023年8月27日発」

今週は懐かしいPDVSA(ベネズエラ石油公社)の石油タンクの写真が新聞紙面を飾りました。

記事は「Paraguay quedó sin fondos para pago a PDVSA tras gestión de Marito(マリト政権の間にPDVSA向け支払いの資金が消滅)」というもの。

https://www.hoy.com.py/nacionales/paraguay-quedo-sin-fondos-para-pago-a-pdvsa-tras-gestion-de-marito

これは、2003年に発足したニカノル大統領の政権時代にパラグアイ政府がベネズエラ政府から買い付けた石油代金の未払いに関する返済に関する問題で、2018年発足、先に任期満了で退任したマリトことMario Abudo Benitez大統領の前のHoracio Cartes大統領時代に返済不履行の請求を受け、Cartes政権としては支払いを約束し、Marito政権がこれを引き継いだものの、今般Santiago Peña政権が発足して財務状況を調べたところ、返済資金2億ドル(約290億円)が霧消していたというスキャンダルです。

汚職を一掃することこそが、政治の不信を回復する最短の道であるとして、Santi新大統領が最重要課題としている事案であり、早速前政権の不透明性が露見した訳です。

Santi新大統領はCartes政権時代は34歳で財務大臣に抜擢されており、政権の金庫番として活躍した人物だけに、カネの動きについてはザルと言われたMarito政権時代とは打って変わって精緻な運営が期待されています。今政権の財務大臣はこれまで中央銀行の総裁であったCarlos Fernández Valdovinos氏で、財政のプロ二人が国政を担うだけに、資金管理については厳しい精査が行われると期待されています。

今日の言葉Fondosは、Fondo(底・奥・核心)の複数形。

どこの国でも税金の使い道はシッカリと把握されるべきです。パラグアイでも日本の税金で永年に亘って経済協力事業が行われていますが、どこで何にどう使われ、それが如何なる効果を発揮しているか、日本の皆さんは知る術もないというのが実情です。防衛装備の予算が大幅に増えて世界の防衛企業が日本に拠点を移しているというニュースも報じられましたが、何故そのようなカネの動きが生じるのか?地球の反対側で起こった不祥事と片付けるのではなく、身近な問題にも通じることとして、物事の奥底にまで踏み込んで検証してもらうことが重要です。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR04DB90U3A800C2000000/

以   上