ラテンアメリカに関連する記述は一部にすぎず、発行から2年が経過しているが、2013年3月に初めて欧州以外のアルゼンチンからフランシスコ法王が選出されたことに鑑み、バチカン市国(公式呼称ではあるが、国際的にはHoly See、聖座ないし法王座が一般的)にグアテマラ大使等を経て2006年から10年の4年間を日本大使として在任した著者による、バチカンの外交を中心とした世俗的側面と宗教的側面、バチカンから見た欧州、世界とカトリック、正教、ユダヤ教、イスラム教、そして日本人のもつ仏教・神道に立ったものの見方を比較した文明論を述べた本書を、世界最大のカトリック信徒が存在するラテンアメリカを理解する上での有用な文献として、あえて紹介することとしたい。
第Ⅰ部でバチカンの主権国家と宗教機関の多相性、バチカン外交の姿、その時代の社会経済問題への働きかけから、宗教としてのカトリックの柔軟性と「時代の挑戦」への対処を、第Ⅱ部でバチカンを取り巻く西欧キリスト教社会の変容、新たな思想(例えば反捕鯨活動家にみる強烈な原理主義的背景)、世界での宗教の影響力の復権とバチカンと諸宗教との関係を論じ、第Ⅲ部で日本にとってのバチカンを6項の提言で纏めている。なかでも、バチカン・カトリック教会は日本的体質に近く、法王のメッセージをもっと日本のために活用すべきだ、外交は宗教的事情を踏まえて進めるべきで、西欧の一部や米国の外交当局が持っているような国際宗教事情を体系的にフォローする部署を設置してしかるべきとの指摘は説得力がある。
今回西欧、イタリア出身者偏重の枢機卿会議が、イタリア系とはいえ世界で最もカトリック人口の多いラテンアメリカから法王を選出した背景、新法王が直面するバチカンの課題と国際関係を理解する上で、大いに参考になる解説書である。
(かまくら春秋社 2011年7月 243頁 1,500円+税)