連載レポート119:「世界競争力ランキング2023から見たラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート119:「世界競争力ランキング2023から見たラテンアメリカ」


連載レポート119

「世界競争力ランキング2023から見たラテンアメリカ」

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

「はじめに」

本年6月20日に「世界競争力ランキング2023」(IMD World Competitiveness Ranking 2023)が発表された。この調査は、スイスのローザンヌに本拠を置くビジネススクールである「国際経営開発研究所」(IMD,International Institute for Management development)によって、1984年から開始され、今回が35回目の発表となる。同報告によれば、調査対象国は64ヶ国で、世界の57の提携機関と協力して収集した164の統計データや世界の経営者640人の回答、経営者意識調査(92の質問)の回答データを基本としたものである。調査は、「経済パーフォーマンス」(Economic Performance)、「政府の効率性」(Government Efficiency)、「ビジネスの効率性」(Business Efficiency)、「インフラ」(Infra)の4項目をカバーしている。ラテンアメリカ関連では、チリ、ペルー、メキシコ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラの7ヶ国を対象としている。

「2023年調査の概要」

表1は、世界競争力ランキングのベスト20にランクされる国名と得点、およびラテンアメリカ7ヶ国とアジアのベスト10と日本を紹介している。日本のマスコミでは、日本が5年前の30位、2022年の34位からランクを落とし35位となったことを報道している。

ベスト20位のうち、欧州諸国が11ヵ国を占める。続いてアジア・オセアニアの4ヶ国、アラブ圏の3ヶ国、北米の米国、カナダが入っている。アジアでは、シンガポール、台湾、香港が上位にランクされている。アラブ諸国の中では、アラブ首長国連邦が10位に、カタールが11位に、サウジアラビアが17位に位置する。ラテンアメリカは、相対的に振るわず、1位のチリでも世界では44位である。

表1 世界競争力ランキング2023の概要

世界

順位

国名 得点 LA

順位

国名 得点
1位 デンマーク 100.0 1位(44) チリ 60.25
2位 アイルランド 99.71 2位(55) ペルー 48.10
3位 スイス 99.13 3位(56) メキシコ 47.68
4位 シンガポール 97.44 4位(58) コロンビア 46.26
5位 オランダ 95.58 5位(60) ブラジル 42.09
6位 台湾 93.11 6位(63) アルゼンチン 34.03
7位 香港 92.05 7位(64) ベネズエラ 26.18
8位 スウェーデン 91.86      
9位 米国 91.14 アジア順位    
10位 アラブ首長国連邦 90.51 1位(4) シンガポール 99.44
11位 フィンランド 89.72 2位(6) 台湾 93.11
11位 カタール 89.72 3位(7) 香港 92.05
13位 ベルギー 89.69 4位(19) オーストラリア 83.02
14位 ノルウエー 88.43 5位(21) 中国 82.10
15位 カナダ 88.21 6位(27) マレーシア 75.75
16位 アイスランド 86.74 7位(28) 韓国 75.71
17位 サウジアラビア 86.06 8位(30) タイ 74.54
18位 チェコ 83.48 9位(31) ニュージーランド 73.30
19位 オーストラリア 83.02 10位(34) インドネシア 70.75
20位 ルクセンブルグ 82.46 11位(35) 日本 67.84
36位 スペイン 67.22      

「ラテンアメリカ7ヶ国の概況」

表2はラテンアメリカ7ヶ国の総合ランキングを表している。それによると、チリ、ペルー、メキシコ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラの順位になっており、ベネズエラ、アルゼンチン、ブラジルは最下位に近いところにランクされている。

5年前の2019年と比較すると、ペルーは変化がないが、その他のすべての国でランクを落としている。1ランクを落とした国はブラジルとベネズエラ、 2ランク落とした国は、チリ、アルゼンチン、6ランク落とした国は、メキシコ、コロンビアとなっている。表では、参考までに宗主国のスペインとアジアの主要国も入れている。

表3は「経済的パーフォーマンス」指標に基づくランキングである。メキシコ、コロンビア、ブラジル、チリ、ペルー、アルゼンチン、ベネズエラと続く。5年前と比較し、ランクを大幅に上昇させた国は、コロンビア(+⒙)、ブラジル(+16)でアルゼンチンとメキシコは+2である。ランクを下げた国は、ペルー(-12)、チリ(-4)、ベネズエラ(-1)となっている。

表4は、政府の効率性から見たランキングである。ラテンアメリカ諸国にとって、この分野が最大の弱みで、チリ、ペルー、メキシコ、コロンビア、ブラジル、ベネズエラ、アルゼンチンの順である。とりわけ、メキシコからアルゼンチンまでの5ヶ国は対象調査国64ヶ国中の最下位あたりを占めている。5年前と比較し、ブラジルとベネズエラは順位に変化はないが、残りの5か国はすべて順位を落としている。メキシコ(-8)、チリ(-6)、コロンビア(-5)、アルゼンチン(-3)とランクを落とした。

表5は、ビジネスの効率性から見たランキングである。チリ、メキシコ、ペルー、コロンビア、ベネズエラ、ブラジル、アルゼンチンの順になっている。とくにアルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ、コロンビアは最下位周辺に位置している。5年前と比較すると、ランクの上昇が見られるのは、ペルーとベネズエラ(各+2)で残りはコロンビア(-12)、チリ、ブラジル、アルゼンチン(各+4)、メキシコ(+2)と順位を落としている。

表6は、インフラから見たランキングである。チリ、ブラジル、アルゼンチン、コロンビア、メキシコ、ペルー、ベネズエラの順である。インフラ部門でもラテンアメリカ諸国は低位に甘んじている。5年前と比較し、改善が見られるのは、チリとブラジルで各+1、アルゼンチン(-5)、ペルー(-3)、メキシコ(-2)、コロンビアとベネズエラ(各ー1)はランクを落としている。

表6は、冒頭でこの調査に当たっては、世界の57の提携機関と協力していると紹介したが、ラテンアメリカ7ヶ国の提携機関を紹介したものである。

表2 競争力調査の総合(Overall)ランキング

国名 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Chile 44位 45位 44位 38位 42位
Peru 55位 54位 58位 52位 55位
Mexico 56位 55位 55位 53位 50位
Colombia 58位 57位 56位 54位 52位
Brazil 60位 59位 57位 56位 59位
Argentina 63位 62位 63位 62位 61位
Venezuela 64位 63位 64位 63位 63位
           
Spain 36位 36位 39位 36位 36位
Singapore 4位 3位 5位 1位 1位
Taiwan 6位 7位 8位 11位 16位
China 21位 17位 16位 20位 14位
Korea 28位 27位 23位 23位 28位
Japan 35位 34位 31位 34位 30位

表3 経済パーフォーマンス(Economic Performance)から見たランキング

国名 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Mexico 30位 27位 49位 38位 28位
Colombia 37位 45位 56位 45位 55位
Brazil 41位 48位 51位 56位 57位
Chile 52位 50位 53位 50位 48位
Peru 53位 40位 60位 51位 41位
Argentina 59位 57位 59位 60位 61位
Venezuela 64位 63位 64位 63位 63位
           
Spain 32位 35位 42位 31位 29位
Singapore 3位 2位 1位 3位 5位
Taiwan 20位 11位 6位 17位 15位
China 8位 4位 4位 7位 2位
Korea 14位 22位 18位 27位 27位
Japan 26位 20位 12位 11位 16位

表4 政府の効率性(Government Efficiency)から見たランキング

国名 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Chile 32位 30位 22位 20位 26位
Peru 50位 52位 48位 40位 49位
Mexico 60位 60位 59位 55位 52位
Colombia 61位 59位 58位 56位 56位
Brazil 62位 61位 62位 61位 62位
Venezuela 63位 62位 63位 62位 63位
Argentina 64位 63位 64位 63位 61位
           
Spain 51位 50位 49位 44位 40位
Singapore 7位 4位 5位 5位 3位
Taiwan 6位 8位 8位 9位 12位
China 35位 29位 27位 37位 35位
Korea 38位 36位 34位 28位 31位
Japan 42位 39位 41位 41位 38位

表5 ビジネスの効率性(Business Efficiency)から見たランキング

国名 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Chile 45位 41位 40位 37位 41位
Mexico 51位 47位 47位 48位 49位
Peru 53位 53位 53位 50位 55位
Colombia 59位 60位 51位 52位 47位
Venezuela 60位 62位 62位 60位 62位
Brazil 61位 52位 49位 47位 57位
Argentina 63位 63位 63位 62位 59位
           
Spain 37位 40位 39位 42位 39位
Singapore 8位 9位 9位 6位 5位
Taiwan 4位 6位 7位 12位 14位
China 21位 15位 17位 18位 15位
Korea 33位 33位 27位 28位 34位
Japan 47位 51位 48位 55位 46位

表6 インフラ(Infrastructure)から見たランキング

国名 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Chile 46位 47位 45位 45位 47位
Brazil 55位 53位 52位 53位 54位
Argentina 56位 54位 56位 52位 51位
Colombia 57位 56位 53位 56位 56位
Mexico 59位 58位 58位 57位 57位
Peru 60位 59位 60位 60位 57位
Venezuela 64位 63位 64位 63位 63位
           
Spain 27位 25位 26位 26位 26位
Singapore 9位 12位 11位 7位 6位
Taiwan 12位 13位 14位 15位 19位
China 21位 21位 18位 22位 16位
Korea 16位 16位 16位 17位 20位
Japan 23位 22位 22位 21位 15位

 

表7 IMDのラテンアメリカ主要国の提携組織

国名 提携組織名(Partner Institution)
Argentina Shaw Institute for Business Research

Catholic University of Argentina

Brazil Federacao Dom Cabral, Innovation and Entrepreneurship Center
Chile Universidad de Chile,Facultad de Economia y Negocios
Colombia National Planning Department
Mexico Center for Strategic Studies for Competitiveness
Peru Centrum PUCP
Venezuela National Council to Investment Promotion(CONAPRI)

 

「国別のチャレンジ」

IMD World Competitiveness 2023 Bookletを見ると、最後の方にCompetitiveness Country Profilesという章があり、国別の2023年のチャレンジ(Challenge in 2003)という項目があり、対象国が2023年になすべき課題を紹介している。簡潔に課題をリストアップしており内容的に大変興味があるので引用する。

1.アルゼンチン
*次期大統領選挙によって生ずる為替相場の不透明感増大のインパクトに対応する。-
*IMFとの取り決めに沿って、慎重な通貨、金融・財政政策によりインフレを抑制する。
*エネルギー部門の生産停滞と製品不足を解消し、新規投資を奨励する。
*雇用創出のインセンティブを生み出すため、社会保障制度の改革を継続する。

2.ブラジル
*競争力を促進する税制改革を実施する。
*社会的支出と公的会計における責任とを調和させる新たな財政的軸を確保する。
*弾力性のある複数の省庁による環境政策と連携したグリーン投資を奨励・誘致する。
*質の高い公教育へのアクセスを確保し、労働力の訓練と再教育のために民間部門と共同で行動する。
*生産の停滞を是正し、雇用創出を促進するための新規投資を奨励する。

3.チリ
*警察活動を強化し、法の支配を確保することによって治安を改善する。
*幅広い社会的合意を得て、憲法改正プロセスを終了させる。
*税制改革と年金改革について幅広い合意に達し、不確実性を軽減する。
*新技術と人工知能の訓練プログラムを通じて生産性を向上させる。
*あらゆるレベルの教育の質と妥当性を向上させる。

4.コロンビア
*イノベーションを通じて農業と工業の生産性格差を是正する。
*気候の影響に対する回復力を向上させる戦略を実施する。
*科学、技術、イノベーションへの投資の効果を改善する。
*地域により大きな効果をもたらす戦略的プロジェクトを実施する。
*インフレ圧力を抑制する

5.メキシコ
*メキシコにおけるニアショアリングを活用するための物流インフラを整備する。
*ビジネス環境を改善し、不確実性を減らし、司法、安全保障、民主主義の枠組みを改善する。
*イノベーションによる国内市場の成長を促進することにより、GDPの高成長(3~4%)を促進する: 「メキシコ製品のためのメキシコ市場」。
*世界の関連経済国との関係を改善する。
*より良い教育とクリーンエネルギーのための構造改革を推進する。

6.ペルー
*腐敗をなくし、公的機関を強化する。
*より大きな政治的安定を達成する。
*より効率的で効果的な保健システムを実現する。
*競争力を高め、社会の進歩を促進する。
*持続可能な発展を伴う経済成長を促進する。

7.ベネズエラ
*規制枠組みの強化:投資家は法律と公的機関への信頼を必要としている。
*景気回復の停滞、消費の鈍化、インフレの加速、為替レートの上昇圧力などを踏まえ、経済の不安定化から復興へと移行する。
*家庭や産業のための基本的なサービスやインフラの問題を解決する。
*行政手続きを簡素化し、高い税負担を軽減する。
*優れたプロジェクトや生産能力を拡大する要素を持つ企業に対する資金調達へのアクセス不足。

最後に、日本にとってのチャレンジ2023を紹介する。

*新しい形の資本主義を活性化させる。
*人的資本、ジェネレーションX、デジタルエクスペリエンスなどへの集中投資を推進する。
*社会問題の解決を成長戦略に組み込む。
*外交と経済・エネルギー・食糧安全保障を強化する。
*財政を健全化する。

以   上