本書はANAグループの機内誌『翼の王国』2008年4月号から10年3月号に連絡された作品に加筆修正したもの。「熱帯の恋愛詩」(ベリーズ)、「カポエイリスタの日常」(ブラジルのバイーア)、「マンディンガの潜水少年たち」(メキシコのベラクルス)、「初めてのフェイジョアーダ」(バイーア)、「ハンモックを吊る場所」(メキシコのメリダ)、「本当のキューバを捜して」(キューバのハバナ)、「ラ・プラタの遁走曲」(ウルグアイのモンテビデオ)、「眺めのいい窓」(バイーア)、「キューバからの二通の手紙」(キューバのシエゴ・デ・アビラ)、「一番よく守られている秘密」(メキシコ・シティ)、「歩く生活の始まり」(バイーア)と、ラテンアメリカが舞台の掌編が21編中11編も入っている。
ウガンダ人の女性とケニアで結婚し、子どもをもうけた日本人の「彼」が、家族とバイーアで暫く生活し、その後別れて世界のあちこちを訪れるという設定のように思えるが、とにかく上記の土地と東アフリカなどで生きる人々の生活、離郷、旅、生きる表情を、それぞれ8頁前後で綴り、各編に原色の美しいイラストレーション(門内ユキエ)が配されている。
著者は、メキシコ、スペイン、ブラジル、ケニアに住んだことがあるラテンアメリカ文学研究者。バルガス=リョサの『世界終末戦争』(新潮社、1988年)やガルシア・マルケスの『生きて語り伝える』(新潮社、2009年)、コエーリョの『11分間』(角川文庫、206年)などの訳書がある。
(岩波書店2013年3月201頁2300円+税)