執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)
「はじめに」
ブラジル外務省は2023年8月10日付けで、世界中に居住しているブラジル人の大まかな統計を発表した。ブラジルの有力誌のVEJA誌の報道をもとに紹介する。それによると2022年時点の海外におけるブラジル人の数は、459万人で、2009年の時点での318万人と比較し、この13年で44.3%と大幅な増加を見ている。
最も大きなブラジル人のコミュニティを構成している国のリストは、表1のとおり、米国190万人、ポルトガル36万人、パラグアイ25.4万人、英国22万人となっており、日本は5番目で20.7万人を数えている。10万人を超えている国は、9カ国に達する。下記の表1のビッグ15ヵ国に占める欧州諸国は、9カ国、北米は2ヶ国、南米3ヶ国、アジア1ヵ国となっている。
表1 ブラジル人の移住国ビッグ15
順位 | 国名 | 移住人口 |
1位 | 米国 | 1.9百万人 |
2位 | ポルトガル | 360千人 |
3位 | パラグアイ | 254千人 |
4位 | 英国 | 220千人 |
5位 | 日本 | 207千人 |
6位 | スペイン | 165千人 |
7位 | ドイツ | 160千人 |
8位 | イタリア | 157千人 |
9位 | カナダ | 133.1千人 |
10位 | フランス領ギアナ | 91.5千人 |
11位 | アルゼンチン | 90.3千人 |
12位 | フランス | 90千人 |
13位 | オーストリア | 80千人 |
14位 | アイルランド | 80千人 |
15位 | オランダ | 76.5千人 |
「ブラジル人の地域別移住状況」
便宜上、千人以上のブラジル人が居住している国を大陸別にまとめてみたのが、表2である。これに従い、それぞれの地域におけるブラジル人の居住状況をみてみよう。
「北米」
最大の受け入れ国は米国で、190万人、カナダも多くのブラジル人を受け入れており、13.3万人、ラテンアメリカ第2の国メキシコにも4.5万人のブラジル人が居住している。米国へのブラジル人新規移住者からの送金額は近年急増している。
「中米・カリブ海諸国」
この地域に住むブラジル人は極端に少ない。もっとも多い国のパナマでも3,500人、次いでコスタリカは、1,800人である。続くドミニカ共和国は900人、グアテマラは500人である。国の規模が小さいことがその理由であろう。
「南米」
近隣諸国にブラジル人が数多く居住しているのは、理解できることである。パラグアイが一番多く、続いてフランス領ギアナ、アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビアの5か国には5万人以上のブラジル人が住んでいる。フランス領ギアナにブラジル人が9万人以上住んでいるのは、金鉱山の発掘でガリンペイロも多いとされている。
「欧州」
15万に以上のブラジル人移住者を持つ欧州の国は、5か国で旧宗主国のポルトガルの36万人を筆頭に、英国22万人、スペイン16,5万人、ドイツ6万人、イタリア15.7万人と続く。5万人から10万人の国は、フランス、オーストリア、アイルランド、オランダ、スイスの5ヶ国である。ブラジル人居住者が1万人を超える国数は14ヶ国に達する。欧州はブラジル人の希望する移住大陸と言えよう。
「中東」
中東におけるブラジル人のプレゼンスは総じて低い。1万人を超えているのは、レバノンとイスラエルだけで、アラブ首長国連邦でも9,600人にとどまっている。イスラエルはユダブラジル系ユダヤ人との関係から来るものと思われる。またブラジルではシリア・レバノン系のプレゼンスも高い。
「アフリカ」
第1期ルーラ政権時代には、ブラジルはアフリカとの関係を深めることに大いに尽力したが、ブラジル人のアフリカにおけるプレゼンスは低い。ポルトガルの植民地であったアンゴラでも27,000人、モザンビークはわずか3,000人である。BRICSの一員である南アフリカでも3,900人にすぎない。
「アジア」
ブラジル人のアジアにおけるプレゼンスはまだまだ低い。出稼ぎで多数のブラジル人がやってきた日本の206,000人は別格として、2番目の中国でも、5,900人と意外に少ない。3番目、4番目、5番目のシンガポール、台湾、韓国にしても2千人を下回っている。中国と並んでグローバルサウスの雄であるインドも800人である。
「オセアニア」
南半球の裕福なオーストラリアには、46,600人、ニュージーランドには6,600人のブラジル人がいる。
「その他個人的コメント」
以下、筆者の全く個人的見解を述べてみよう。
*ブラジル人の移住国のビッグ15から推測すると、ビジネスも当然あるが、彼らの旧宗主国ないしは移住者を送り出した国である欧州諸国への移住願望が強いようである。よりよい生活、より安全な生活を求めて移住しているという感じがする。日本への移住も同様であろう。
*ビッグ15のリストを見ていると、偶然かもしれないが、不思議なことにサッカーの盛んな国への移住が多いようである。
*一時、BRICSともてはやされたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカであるが、ブラジルの4か国でのプレゼンスは相対的にみて予想外に低いように思われる。ロシア970人、インドには800人、中国には5,900人、南アには3,900人となっている。
*10人以下のブラジル人が住む国は下記の通り。北朝鮮にもブラジル人が1人いる。
10人 ボツワナ、ブルンディ、モウリタニア、ソマリア、ブルネイ、モンゴル、ミャンマー、ヴァヌアツ
9人 エスエアティ二
8人 グアム
6人 モルジブ
5人 アンギーラ、セイシェル
2人 アンテイグア・バーブーダ
1人 北朝鮮、サンクリストファー・ネーヴェス、ミクロネシア
表2 世界に散らばるブラジル人(千人以上移住している国リスト)
地域 | 国名 | ブラジル人人口 |
北米 | 米国 | 1.9百万人 |
カナダ | 133.1千人 | |
メキシコ | 45千人 | |
中米・カリブ諸国 | パナマ | 3.5千人 |
コスタリカ | 1.8千人 | |
南米 | パラグアイ | 254千人 |
フランス領ギアナ | 91.5千人 | |
アルゼンチン | 90.3千人 | |
ウルグアイ | 59千人 | |
ボリビア | 56.5千人 | |
スリナム | 30千人 | |
チリ | 19.3千人 | |
コロンビア | 12千人 | |
ガイアナ | 11.8千人 | |
ベネズエラ | 11.8千人 | |
ペルー | 6.9千人 | |
エクアドル | 3.5千人 | |
欧州 | ポルトガル | 360千人 |
英国 | 220千人 | |
スペイン | 165千人 | |
ドイツ | 160千人 | |
イタリア | 157千人 | |
フランス | 90千人 | |
オーストリア | 80千人 | |
アイルランド | 80千人 | |
オランダ | 76.5千人 | |
スイス | 64千人 | |
ベルギー | 40千人 | |
スエーデン | 20千人 | |
ノルウエー | 11千人 | |
ルクセンブルグ | 10千人 | |
デンマーク | 5千人 | |
ギリシャ | 4千人 | |
マルタ | 4千人 | |
ポーランド | 3千人 | |
フィンランド | 2.3千人 | |
サンマリノ | 1.9千人 | |
チェコ | 1.3千人 | |
ハンガリー | 1.2千人 | |
トルコ | 1.1千人 | |
中東 | レバノン | 21千人 |
イスラエル | 14千人 | |
アラブ首長国連邦 | 9.6千人 | |
パレスチナ | 6千人 | |
ヨルダン | 3千人 | |
シリア | 3千人 | |
カタール | 1千人 | |
アフリカ | アンゴラ | 27千人 |
南アフリカ | 3.9千人 | |
モザンビーク | 3千人 | |
エジプト | 2.5千人 | |
アジア | 日本 | 206.9千人 |
中国 | 5.9千人 | |
シンガポール | 2千人 | |
台湾 | 1.7千人 | |
韓国 | 1.4千人 | |
オセアニア | オーストラリア | 46.6千人 |
ニュージーランド | 6.6千人 | |
世界合計 | 4.59百万人 |
以 上