ブラジルのマトグロッソ州奥地に隠れ住み、遺伝子操作で人間とトカゲのキメラをつくり、先住民人を怪しげな人体実験で使うナチの残党の生物学者、これに協力する祖国の敗戦を信じない勝ち組日系人集団とそのリーダーの老人、キメラ人間、ユダヤ人のナチ残党狩り組織からのハンターの医師、『悲しき熱帯』の著作があるフランスの学者レヴィー=ストローズの弟子でアルコール依存症の人類学者、そして日系ジャーナリトのタテイシなどが絡み。最後は研究所の破壊とそれに因る放射能汚染地にキメラ人間、狂信的な勝ち組老人、ナチハンターの3人の墓が遺る森の奥地を生き残った者が訪れるというシーンで終わる。
アマゾンのジャングルの中、ナチや勝ち組の残党の研究所、それを追うハンターやジャーナリスト、ユダヤ陰謀論、人間とキメラの異種間恋愛も絡んで、現在の世の中は陰謀論と真実がキメラ状態にあると饒舌に語っているが、文化人類学、ブラジル日系移民と勝ち組・負け組抗争、ナチ残党に関わるかなりの参考文献を基にした歴史ミステリー風だが、冗長な部分がある感は拭えない。ハヤカワSFコンテストの第10回で選評者の間で意見が分かれ特別賞となって刊行された。
〔桜井 敏浩〕
(早川書房 2023年2月 376頁 2,200円+税 ISBN978-4-15-210207-2)