アジア経済研究所のキューバ専門家である編者をはじめ6名のラテンアメリカ研究者が、カストロ政権の革命体制の現状と課題を政治、経済、社会、国際関係から総合的に分析している。
序章「岐路に立つキューバ」(山岡)でキューバ革命体制とそれをめぐる論点、経済・社会動向と国際関係を概観し、第1章「移行期におけるキューバの政治体制」(山岡、小池康弘 愛知県立大学)でフィデル・カストロが2006年に引退した後を継いだラウル・カストロ政権のポスト全体主義体制を、第2章「平行線をたどるキューバ・米国関係」(山岡)ではキューバ側の対米国関係の言説・主張と米国の対キューバ政策と言説を紹介し、両者の認識ギャップを明らかにしている。第3章「キューバ社会主義体制の維持とALBAの展開」(田中 高 中部大学)はベネズエラのチャベス大統領が提唱したALBA(米州ボリバル同盟)との関わりを、第4章「キューバ社会主義経済の移行問題」(狐崎知己 専修大学)ではマクロ経済動向と経済成長モデルから経済改革試行の前途を展望している。第5章「キューバ社会主義福祉国家」(宇佐見耕一 アジア経済研究所)では、社会主義福祉国家であるキューバの社会保障制度の内容と変容を、第6章「人権なき未来に向かって」(工藤多香子 慶応義塾大学)では歴史的背景をもつ黒い肌の人との人種意識と反人種主義の問題を論じていて、最後に補論として「キューバ 党と革命の経済・社会政策指針」の解説と部分訳を付けてあり、現在のキューバを理解する上で有用な論集になっている。
(岩波書店 2012年2月 267頁 4,400円+税)