日系ブラジル移民文学 −日本語の長い旅 [ 評論 ] - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

日系ブラジル移民文学 −日本語の長い旅 [ 評論 ]


これまで日系ブラジル文化の音楽、映画、芸能等について論じた書物を出してきた著者による、既紹介の第?巻に続く日系ブラジル移民文学の大部な総合的研 究書の第?巻。第?巻では日系ブラジル人による文芸の 100 年の軌跡をジャンル別に追った「歴史」編だったが、この第?巻では概念、同人誌、題材、作品、 人物などを個別にあたり「、耕す」では戦前の農村文学を詩歌、川柳、都々逸を例に、「争う」では戦後間もない勝ち組・負け組抗争の文学と論争的な『コロニア文学』 (1966 〜 77 年 ) の創刊から移住の終わりかける時期の文学を、「流れる」では、移民の移動体験、居場所のなさを戦前戦後の数編から、「乱れる」では奔放な女 性の性遍歴を扱った2編を取り上げ、「渡る」では海を渡った移民が、日本の風土で生まれた俳句、短歌をいかに移植したかを、最後に付論「対蹠地にて」では、 かの石川達三の『蒼氓』ほか2編の日本での小説により論じている。

日系ブラジル移民の文学に関わる膨大な資料に目を通して、その全容を記録し ようとした、著者の 20 年にわたる調査の貴重な記録と解析の集大成であり、偉大なる労作である。

(細川 周平 みすず書房 2013 年 2 月 784 頁 15000 円+税)