ボサノヴァの真実 −その知られざるエピソード | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

ボサノヴァの真実 −その知られざるエピソード


いまや日本でもあちこちで、ブラジルとは無関係の思いがけないところでも流さ れているボサノヴァは、実はブラジル庶民の伝統的な音楽ではなく、1958 年に創られたといわれる。リオデジャネイロの中産階級の音楽家の間から生まれ、ブラ ジル各地の音楽や米国でジャズやラテン音楽などの影響を受け、盛衰の歴史を超えて半世紀を経た現在、ボサノヴァはいまや世界的な市民権を得て多くのファンが いる。

本書はボサノヴァに魅せられブラジル音楽評論の道に入って 10 余年の著者が、 ある程度はボサノヴァについての認識を持っている読者に、あらためて「ボサノヴァはブラジルの音楽である」という原点に立って“ブラジルからの視点”でボサノ ヴァの生まれた背景、定義、分類を詳述し、トム・ジョビン、ジョアン・ジルベルト、ヴィニシウス・ヂ・モライスの3人の出会いがボサノヴァを誕生させたという通説 に対する見解をはじめ、有名のみならず無名でも評価すべきボサノヴィスタたちの活動、米国はじめ海外に渡ったボサノヴァの作曲家、演奏家、歌手たちとブラジル との往来、世界に広がったボサノヴァ(中にはブラジル人が知らないボサノヴァのスタンダード曲もあるという)、ボサノヴァをはじめいろいろなジャンルの音楽を 融合する MPB(ブラジル・ポピュラー音楽)の中に昇華されていること、1964年の軍政の始まった前後と時を同じくしていったん衰退したボサノヴァが 70 年代 後半に復活し、今日に至り活躍している現役、直系、継承者やブラジル国外で活躍しているミュージシャンたち、ボサノヴァの新解釈、他ジャンルとの融合の試みに まで言及している。最後に日本におけるボサノヴァの歴史を、60 年フランス、ブラジル、イタリア合作映画『黒いオルフェ』の挿入歌「カルナバルの朝」「フェリ シダーヂ」の大ヒットでボサノヴァが知られるようになり、ブラジルからのミュージシャンの来日、渡辺貞夫はじめ自身のジャズ等にボサノヴァを取り入れ始める日 本人ミュージシャンが出始めた黎明期、本格的にブラジル・日本のボサノヴァ・ミ ュージシャンが往来するようになった 70年代の普及期、アントニオ・カルロス・ ジョビンの最初で最後の来日公演や小野リサのデビューに象徴される 80 年代の 発展期、シュハスカリア(ブラジル風焼き肉レストラン)の開店が相次ぎ、サッカー等を通じてブラジルへの関心が広まって、ブラジルのボサノヴァ・ミュージシャ ンの来訪や日本人ミュージシャンのブラジル渡航が盛んになった 90 年代の多様期、ジョアン・ジルベルトの来日公演、ブラジルでボサノヴァの後継者と評価され るまでに認められている臼田道成はじめ、小野リサ以外にも多くの実力あるボサノ ヴァ・ミュージシャンが輩出し、さまざまな店でBGM で流されるようになった円 熟期の 2000 年代に至るまで、日本でのボサノヴァの流れを概観している。

全編にわたってボサノヴァについての実に豊富かつ様々な事象の蘊蓄が満載さ れていて、ボサノヴァの全容を知るうえで貴重な文献だが、それと同時にブラジル

をボサノヴァを通じて理解するためにもきわめて有用な手引き書である。

(ウィリー・ヲゥーパー 彩流社 2013 年 2 月 462 頁3000 円+税)