シャーガス病は,媒介する昆虫サシガメ(刺すカメムシ)によって病原体が体 内に入ると心臓が徐々に肥大し、心筋梗塞や心筋症を引き起こす恐ろしい感染症だが、サシガメは土壁や藁葺き屋根などに好んで生息するため、貧しい農村部に 多く発生する。日本はこのサシガメ駆除のために技術協力専門家や青年海外協力隊を派遣して、中米各地で取り組んできた。著者はグアテマラ、ホンジュラス、 エルサルバドルなどの第一線で、長くシャーガス病対策の専門家として活躍し、 現在も国際協力機構 (JICA)中米シャーガス病対策広域アドバイザーを務めている。
一世紀前に発見されたシャーガス病が、「貧困の病」といわれるゆえんの現地 環境、在来・外来サシガメの存在、殺虫剤と治療薬、内戦と不安定な政治で遅れた中米の駆除対策の前史的な説明から、いよいよ中米で対策プロジェクトが立ち 上げられ、サシガメの生息、分布状況調査、現地住民と協力しての活動開始、駆除が終わった後の監視活動強化等の再発生防止体制、村人たちへの生活改善啓蒙 活動などの活動とその成果、現地での人材育成、そしてサシガメ駆除による「感染中断」認定後の展望を、直接現地でまさに最も貧しい農村の人達の生活の安全性を高めるために活動した記録が記述されている。
(橋本 謙 ダイヤモンド社 2013 年 2 月 205 頁 1500 円+税)