『インカ帝国 −大街道を行く』 高野 潤 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『インカ帝国 −大街道を行く』 高野 潤


インカ帝国は、現在のペルーのクスコを首都に、アルゼンチン、チリからボリビア、エクアドル、さらにコロンビアに至る広大な領土を、総延長3万kmにもなるカパック・ニャン(インカ道、王道)で繋いで統治した。本書は、1973年からアンデス、アマゾン上流地帯に通い、多くの写真集、紀行記を著している写真家が、このインカ大街道網をクスコ周辺から始め、マチュピチュや熱帯に続くかつて黄金を算出した東方圏、アンデス山脈が連なる高地と海岸砂漠の北方圏、壮大な規模のアンデネス(段々畑)や海の幸を供給した西方圏、ティティカカ湖の西側やその南に不毛の高原が広がる南方圏の4地方に分けて、それぞれの地の歴史と当時の姿、現在の様子を多くのカラー写真とともに語ったものである。

この大街道網が、インカの周辺部族の征服と支配のための皇帝の道から、インカが求めた物資・物産の共有のための輸送路としての機能を果たしてインカの栄光を支えたが、インカの勢力圏の膨張というワイコ(本来は土石流・鉄砲水などを指すが、人や社会を呑み込んで大きく動かす激流現象の意)をもたらしたカパック・ニャンは、やがて未だスペイン人征服者が姿を現す前に先行して伝搬されてきた旧世界の疫病の流行を瞬く間に拡大し、エクアドルに滞在していたインカ帝国末期の皇帝ワイナ・カパックを倒し、これが統治の分裂、内紛を引き起こして、結局ピサロの侵攻と征服というワイコがインカ帝国を呑み込んだのである。

アンデス全域を歩いて撮った、新書版では惜しい迫力ある極めて貴重な写真がふんだんに使って、クロニカなどの歴史書の記述を引用しつつ、現状とともにこの大街道が果たした役割を記述している。

(中央公論新社(中公新書)2013年1月190頁1000円+税)