連載エッセイ282:新井賢一「南米コロンビア・雲と星が近い町 から」その17 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ282:新井賢一「南米コロンビア・雲と星が近い町 から」その17


連載エッセイ 282

南米コロンビア・雲と星が近い町から」その17

巨匠フェルナンド・ボテロ、星になる

執筆者:新井 賢一(Andes Tours Colombia代表 ボゴタ在住)

コロンビア・そして世界的芸術家であるフェルナンド・ボテロ氏がイタリア・ミラノの自宅で逝去されました。91歳でした。画家・そして彫刻家でもあったボテロ氏の作品はどれも丸みを帯びた独特の作風ですので、これだけで分かる方もいるでしょう。昨年は生誕90年記念として日本国内でも「ボテロ展」が開催された事もあり、足を運ばれた方も多いと思います。

首都ボゴタにある「ボテロ博物館」に常設展示されている数多くの作品のうちの三点です。左が言うまでもない「モナリザ」、中画像の作品で描かれている男性、これはボテロ氏本人です(御本人は痩身でした)、そして博物館に入るとまず目にする大きな作品「手」です。ボテロ博物館内にはこの他多くの作品が展示されており、自作品の他にも氏が所有していたピカソ・ミロ・シャガール・ルノアール・ダリその他世界的巨匠の作品も展示されています。

「ボテロ博物館」という名前ですが、実はオープン当初は「ボテロ寄贈館」という名前でした。名前の由来通り展示されている大半の作品はボテロ氏が寄贈されたもので、首都ボゴタに数多くある博物館・美術館等で「通年入館無料」の施設としては史上初めてのものでした。無料で入館出来るのは現在も変わりません。そこには多くの芸術作品を国家に寄贈するにあたり「来館者からお金を取るな」というボテロ氏の強い意向があったようです。街中に溢れるボテロ作品のコピーの数々、例えば民芸品店でいくらでも見かける彫刻作品のレプリカや絵画のコピー等について商標権を巡り争ったという話は一度も聞いた事がありません。これも氏の意向が反映されたものでしょう。

こちらはボテロ氏逝去の翌日、仕事でボゴタ旧市街地区にいた時に撮影したものです。博物館入口の「手」には献花が捧げられ、国会議事堂・コロンビア大統領府では偉大なる”マエストロ”ボテロ氏の功績を称え、哀悼の意を表す半旗が掲げられました。そしてペトロ大統領は3日間の服喪を発表しました。逝去当日のテレビ各局ニュース番組はマエストロ・ボテロ逝去の報で大半を費やし、各局ニュースキャスターはいずれも黒の喪服を着用してマエストロの逝去を報じました。ボテロ氏がいかに偉大な巨匠であったかが分かり得たものです。

マエストロ・ボテロ逝去の投稿に際してどのようなタイトルがふさわしいか色々考えました。氏のような偉大な方であれば死去・逝去というよりも遥か遠くに見える星になってしまったという方が自分なりにふさわしいと思い「星になる」と付けました。

こちらはコロンビア第二の都市・メデジン市の中心部にある「ボテロ広場」に常設されている大掛かりな作品です。ボテロ氏はこのメデジン出身であり、前述のボテロ博物館に寄贈された多くの作品は当初出身地のメデジン市に寄贈する予定でしたが、結果として他の世界的巨匠の作品も含め値がつかない程の価値がある多くの作品はコロンビア国立銀行が管理を引き受ける事になり現在に至っています。

ボテロ博物館はメデジン市内随一の観光名所でもありますので、メデジンを訪れる際には是非とも立ち寄って頂きたい場所です。設置されている作品もいずれも丸みを帯びた作風です。これらはかなり大きな作品ですがボテロ氏が手掛けた彫刻作品等は世界各地に置かれており、日本国内でも複数の場所に設置されています。

コロンビア・そして世界の巨匠であった偉大なマエストロ・ボテロの御冥福をお祈りします。

以   上