1933 年から始まったニカラグアのソモサ一族による独裁政権は、79 年7 月に大統領アナスタシオ・ソモサ・デバイレの海外亡命で終わるが、その崩壊目前に権力の影にあって様々な悪行に荷担していたソモサの私設秘書官アリリオ・マルティニカ(国会議長、与党党首を務めたコルネリオ・ヒュックがモデルと思われる)は逃亡を企てたが革命軍に捕まり民衆裁判にかけられ、銃殺刑に処される。その間の証言、尋問でのやり取り、調書、供述、何通かの手紙を次々に示して、一見ノンフィクションのようだが、事実のなかに想像を巧みに織り交ぜた小説である。
ラミレスは1970 年代半ばから反ソモサゲリラ組織のサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)を支援、政権奪取後84 〜 90 年にはサンディニスタ政権の副大統領としてオルテガ大統領(第1 期)を支えたが、その後袂を分かち95 年の大統領選挙にサンディニスタ刷新運動から立候補したが敗北、以後は文学活動に専念という経歴をもつ。
ソモサの半世紀ちかい独裁の中で公然と、あるいは秘密裏に行われた数々の歴史的事件の蛮行を、フィクションこそ史実より確実な歴史であるとの筆力で再構築した現代ラテンアメリカ文学の新たな一作。ニカラグアの近現代史の関連人物紹介、独立から2011 年のオルテガ大統領の再選に至るまでの年表(作成笛田千容元在ニカラグア日本大使館専門調査員)も付いていて、内容の理解を助けてくれる。
〔桜井 敏浩〕
(寺尾隆吉訳 水声社 2013 年4 月 324 頁 2,800 円+税)