『南・北アメリカの比較史的研究−南・北アメリカ社会の相違の歴史的根源』 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『南・北アメリカの比較史的研究−南・北アメリカ社会の相違の歴史的根源』


米国経済史を長年専門としてきた著者(広島大学名誉教授)が、南北戦争に見られる北部の保護貿易論に対する南部の奴隷所有プランターとの対立という経済基盤の解明を進めていくうちに、先住民・黒人への人種問題にも関心をもち、南北米州での奴隷制の相違、さらには植民者本国の社会・文化の相違に遡って追求したこれまでの論考を集大成したもの。

第一部南北アメリカの比較史では、英国の「プロテスタント的植民者」「定住型植民地」とスペインの「カトリック的征服者」「搾取型植民地」の相違ととらえ、第二部新大陸におけるスペインの植民地政策では、アステカ社会におけるカルプリと呼ばれた先住民共同体の実態、ラティフンディオ(大土地所有制)と先住民共同体、アシエンダ(大農園)型の形成過程を土地所有と労働力から、修道士による信仰村への集住がやがて植民地行政による集住政策に継承された例をメキシコはじめペルー、グアテマラで、征服の拠点が都市から始まり周辺農村へ発展したため騎士的市民(都市貴族−官僚、聖職者、大地主、鉱山主)が支配し集まった寄生都市となり、西欧都市のように都市ブルジョアジー(商工業者)の都市に成長しなかったことなどを考察している。

スペインとだけの関係で見ることが多いラテンアメリカ研究者にとって、北米や非ラテン西欧の経済史との比較を念頭に置いた大いに興味深い論考集である。

(宮野 啓二御茶の水書房2013 年10 月366 頁7600 円+税)