ほぼすべての学術システム、知の創造、伝達の中核をなす存在であるのが研究大学であり、アジア、ラテンアメリカの多くの国々で資金・人材・伝統等の制約の中で世界水準の研究大学構築に挑戦している実態を知らしめてくれる。
特に西洋の教育の伝統を持たなかったにもかかわらず、高等教育の発展を実現した日本に関しては特に原著になかった1章を増補している。第1部「新興国家の大学戦略と日本」では、研究大学の歴史、試練、発展途上国における目標と現実、アジアとラテンアメリカでの高等教育政策と研究大学、日本の「世界水準大学」政策の行方を論じている。第2部「世界水準をめざすアジア・中南米のトップ大学」は、主要途上国での研究大学の実態と世界水準への試み、展望を、中国、インド、韓国、ブラジル、メキシコ、チリ、アルゼンチンの例を詳細に記述している。
ブラジル最古の総合大学USP(サンパウロ州立大学)の位置づけ、ブラジルの高等教育システムと大学院教育、国家建設大学としてのUNAM(メキシコ国立自治大学)の独自性と研究大学の役割、チリに研究大学はあるかと問いかける市場競争原理の下での試行など、中所得国における研究大学構築への挑戦の例としてブエノスアアイレス大学の事例など、ラテンアメリカの大学の今日的意義が分析されている興味深い論考集。15 人の執筆者は、米国、チリ、アルゼンチン、メキシコ、ブラジル、インド、中国、韓国の研究者・大学教職者。
(フィリップ・G. アルトバック、ホルヘ・バラン光澤彰純監訳東信堂2013 年5 月386 頁4800 円+税)