連載エッセイ285:田所清克「ブラジル雑感」その31「アマゾンの風物詩」その4 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ285:田所清克「ブラジル雑感」その31「アマゾンの風物詩」その4


連載エッセイ285

ブラジル雑感 その31
アマゾンの風物詩 その4

執執筆者:田所清克(京都外国語大学名誉教授)

アマゾンの風物詩 22 –両生類– ジヤカレー•アスー(jacaré-açu) 4

全長6メートルに達するアメリカ大陸最大の捕食動物のジヤカレー•アスー。近隣諸国のコロンビア、ペルー、エクアドル、ギアナを含めた、アマゾン河流域の河川や湖沼に棲息する。雨林のさまざまな動物を捕食するが、魚類や巻き貝(caramujo)を好んで食べるようである。この鰐の繁殖についてはあまり知られていないが、雌が30~40個の卵を産み60日で孵化する時期は、乾季のようである。

大きさの割には攻撃的ではなく、小型の動物が中心で人間を襲うことはめったにない。

皮が国際市場で価値あることから、70年代当初までは合法的に捕獲されてきた。しかし、80年代になると、ブラジル域内のアマゾン地方では、誤って絶滅危惧種としてみなされた。が、最近の研究では、jacaré-açuはアマゾン地方、なかでもvárzeaではどこにもいるありふれた存在であることが明らかにされた。

アマゾン州にあるマミラウアー持続可能な発展保護区[Reserva de Desenvolvimento Sustentável
Mamirauá]などの地帯では、乾季ともなれば川岸や湖沼には多くのジヤカレー•アスーが観察される。パンタナルでよく見かけるやや小型のjacaré-tinga(caimã)もアマゾン流域には棲息する。

*カイマン鰐はパンタナルにて撮影

アマゾンの風物詩23 この地方を表徴するいくつかの魚: タンバキ(tambaqui  ) ①

ずいぶん前に、アマゾンの代表格の魚であるピラルクについて紙面を割いた。その際に、美味なタンバキとツクナレーについても幾分触れた。個人の好尚もあるが、双方の魚とも舌鼓を打つこと疑いのない、実に美味しい淡水魚である。まず、tambaqui
から紹介したい。学術名colossoma macropomumを持つこの魚は、体長90cmから1m程度で、30kgの重さにもなる。アマゾン河流域だけでなく、Mato GrossoやGoiásの中西部、南東部、南部でも棲息している。

しかしながら、棲息地の本場はなんといつてもアマゾンだろう。洪水の時期に氾濫した原始林に入り込み、そこにある果実や種子を食する。乾季の間、成魚になる前のタンバキはvárzeaに点在する湖沼に留まり、動物プランクトン(zooplancton)を食べながら生きている。

他方、成魚はまさしく粘土色の泥水のあるところに移して、卵を産む。繁殖は少なくとも体長が55cmに達し、4年を迎えた雨季の頃だ。驚くのは、食料が見当たらない時のタンバキは、自ら体内に貯えていた脂肪で生きていることだろう。白い魚肉は、焼いても煮込み料理(caldeirada)にしても、絶品の味がする。であるから、この魚に対する人気は高い。そのこともあってか、繁殖期の12月~2月の間、今では漁猟が禁じられている。

アマゾンの風物詩23 –この地方を表徴する魚: トウクナレー(tucunaré)②-

タンバキ同様に賞味の対象としてもてはやされるトウクナレー。よくFacebookにご登場の、日立のかつて経営者をされていたKaneda
Yukitakaさん、外国人児童•生徒の問題に積極的に対応されておられる藤川純子先生、このお二方ともアマゾンでタンバキ料理を堪能されたとのこと。タンバキ同様に、賞味の対象として多くの人にもてはやされるトウクナレー。学術名cichla
temensisを持つこの魚な特徴はと言えば、尾っぽに近いところに丸い斑点、すなわち眼状紋(ocelo)があることのようだ。この単眼によって他の捕食動物は惑わされ、難のがれることもあるらしい。

体色は種類によって異なる。黄身がかったものもあれば、緑がかったのもの、青みがかったもの、暗褐色のものもいるようだ。全ての魚に斑模様がある。しかしそれは、場所、大きさによってまちまち。成魚の大きさは30cm以上で、1mを越えるものもいる。本来、アマゾン河流域およびAraguaia-Tocatins流域の固有種であった。あまりその事由は判っていないが、今ではPrata川やSão
Francisco 川、北東部の貯水地(açude), パンタナルの一部地域、南東部の大河にも棲息する。

魚やエビを食べ、もし獲物が逃げた場合は、捕獲するまで諦めないという具合に、なかなかしぶとい。昼行性で、繁殖の場は池や湖である。アマゾンにはおよそ14種類のトウクナレーがいると言われている。大きさは種類によって異なるが、最大のそれは、強い色をして垂直に黒い模様のあるtucunaré–açuで、特にBarcelos近くのNegro川支流に存在する。ちなみに、tucunaré-vermelho,
tucunaré-paca, tucunaré-pinimaとも呼ばれるtucunaré-açuの体重は概して、10kg程度である。 tucunaré
はトウピ語で「木の友達」、「木のような」を意味する。*tucun=árvore[=木]、aré=amigo, semelhante [友達、~のような、~に似た]。

*tucunaré-açuの写真はWebから。

アマゾンの風物詩23 –この地方を表徴する魚:ピラーニア(piranha) ③

アマゾンの淡水魚を語る際に、学名pygocentrus nattereripiranhaを持つpiranhaを除外するわけにはいかない。この魚の名前については日本人の誰でも知っているが、意外と生態などにはご存知ない。  アマゾン河流域のみならず、アラグアイア•トカンチンス水系、パラグアイ水系なら、どこにでもいる魚である。従って、アマゾンやパンタナルを訪ねた時は私はかならず、piranha釣りをしたものである。鋭い歯を持ち下顎の突き出た風体は、いかにも肉食の魚を感じさせる。大きさにはばらつきがあり、15cm~25cmくらい。土色の濁った川や湖に、100匹程度群れ(cardume)をなして棲息している。

貪欲な捕食動物で、大型の魚であっても瞬く間に寸断され食われてしまう。トウピ語で「ハサミを持つた魚」といわれる所以である。人間を含め大型の動物であつても危険である。わけても傷口があったり、流血があったりしている時に水のなかにはいるのは、危険きわまりない。30年前に、学生さんとSolimões
川の支流で水浴びしたことがあった。むろん、金槌の私は泳げないし泳がなかったが、女子数名が気持ちよさそうに泳いだものだった。が、今となって思えば、ぞっとする話である。私は女子さんに対して、月のものが今あれは、水の中に入るのを止めるべきであったのである。

piranhaには36種類いて、さらにそれは5つに下位分類されるようである。私が知っているのは、piranha-vermelha , piranha-pretaぐらい。前者はもっとも凶暴で知られている。piranha釣りにブラジルに出向かれる方もおられるかもしれませんが、針から魚を外すときは注意を要する。指を噛みきられる恐れが十分あるからだ。技術があるなしにかかわらずいとも簡単に釣れ、実に楽しいfishingには違いない。

*写真は全てWebから借用

アマゾンの風物詩23 –この地方を表徴する魚:獰猛な助平ナマズ(canjiru)④

アマゾン地方の住民が恐れている生き物は、神話や迷信で代々伝来しているせいもあるが、cobra grande(大蛇)とboto-de-rosa(ピンク•イルカ)と、今回テーマにしているcanjiru(小型のナマズの仲間カンジル)である。

カンジルについては開高健の著書『オーパー』を通じて、ご存知の向きもおありだろう。学名vandellia cirrhosaを持つこの魚は、吸血コウモリ(vampiro)や”
猫魚(peixe-gato)の名でも知られている。また、大型のナマズなどのエラに食い込むことから、寄生魚でもある。トリコミュクテルス科のcanjiruが獰猛で助平ナマズとみなされるのは、見た目とは裏腹に、死にかかった魚はむろん、人体の肛門、陰門、尿道などの小さな穴(orifício)に入り込み、臓器を食い荒らし血を好んで吸う代物だからである。現に、この魚の災難に遭った人は報告されている。体内に侵入したカンジルは手術して除去する以外に手はないそうだ。

ボリビア、コロンビア、エクワドル、ペルーを含めたアマゾン河流域に棲息している。canjiru-açuは体長15~30cmに達する大型であるが、canjiruは5~12cm程度。私は30年前に、この吸血コウモリの別称を持つカンジルを恐る恐る手のひらに乗せたことがある。カンジルの種類は280種類にも及び、さらに40に下位分類されるようだ。

アマゾンの風物詩23 –” 魚の大地 ” の名だたる料理– ⑤

1545年、アマゾンの地を訪ねたスペイン人の修業僧のGaspar Carvajalは、多くの魚がその地にいることから、” Terra dos Peixes”と年代記に記している。ことほど左様に、無数の河川を束ねたアマゾン河と他の流域を有するアマゾン地方には、実に多数の魚が存在する。aruanãなどまだまだ取り上げたい淡水魚は山ほどあるが、キリがないのでこのあたりで終止符を打ちたい。機会があれば、将来言及するつもりでいる。

アマゾンを訪ねれば必ずと言ってもよいくらい私の食べるのが、この地方の典型的な熱帯フルーツと、魚料理とタカカー(tacacá)である。水牛の肉も美味しいが、tambaqui、pirarucu、tucunaréなどを火であぶったもの(moqueado)とかキヤツサバの粥の入った煮込み料理は、パット•ノ•トウクピ(pato no tucupi=トウクピで鴨肉を煮込んだもの)と合わせて最高のものだ。

現地の人がスコールの後に暑さと湿気を吹き飛ばすタカカー(tacacá)も、アマゾンに出向かれたらぜひとも試食して頂きたい、アマゾンを代表する料理である。トウピ語で「濃いドロドロした」という意味を持つタカカーは、トウクピにポルヴイーニヨ(polvinho=キヤツサバの粉)を加えたどろつとしたスープを、海老やジヤンブ(jambu=アマゾンに自生する植物で、その葉は舌にヒリヒリしたしびれ、麻痺(dormete)をもたらす)とともに煮込んだものである。

このように、魚料理や熱帯フルーツを堪能する意味でも、アマゾンを訪ねる価値は十分にある。frutívoro(フルーツを常食とする)私であるが、現地の住民は朝食時に、トゥクマン(tucumã)の果実をサンドイッチと共に食べるそうである。

*写真は全てWeb から借用

アマゾンの風物詩23 –ゲルマン民族の大移動ならぬ淡水魚の大移動–⑥

パンタナルの乾季に、多くの魚が上流に水をもとめて移動を直にみたことがある。アマゾンでも季節の大移動があるらしい。このアマゾンで何と言うのかしらないが、パンタナルではピラセーマ(piracema)という。何百種類の魚がアマゾンでは移動する。さながら、ゲルマン民族の大移動のごときものである。その移動は、流域に沿ったものであつたり、湖沼の方向へ目指すものであったりもする。

移動の理由は魚の種類によって異なるが、あるものは繁殖のために、またあるものはより多くの食べ物を求めてのことである。驚くことに、大型のナマズのある種のものの中には、6ヵ月の行程をかけて、アマゾン河に沿って3000kmも移動するものもいるそうだ。

*写真はWebから全て借用

アマゾンの風物詩24 –アサイの木(açaizeiro)—

ずいぶん前に、アマゾンの果樹について二、三紹介した。アサイを知らない人もいないと思われるので、少々立ち入って述べてみたい。椰子の木の一種でその実が、エネルギー源となるばかりか抗酸化作用(antioxidante)の効能のあるアサイの木。高さは普通、20~25mで、いくつも枝分かれたおのおのの幹の直径は25cm程度である。アマゾン低地の大きな藪には沢山植生している。ことに河川の河口にはどこにも存在する。

訪ねたことはないが、Cadajás市は” アサイの地
“として知られている。アサイの実は年中とれるが、紫色に成熟するのは7月から12月。房に鈴なりになった実は1グラムほどであるが、各々の花房からは6kg前後の実が獲れるようだ。アマゾンの住民には重宝され、わけても下層の人たちの貴重なたんぱく源になっている。ちなみに、ベレンの人が月に消費するアサイは4500t、一人当たりの一日の消費量は2リットル、との統計がある。

アサイの果実だけでなく、その木材は川べりにすむribeirinhoにとっては有用なもので、杭や床に、また葉は屋根を葺くのに用いられる。アサイの採集は、家族単位で行われることが多く、しかも、採集時期は乾季が望ましい。何故なら、雨季には幹が滑りやすいからである。彼らはpeconhaといわれる木によじ登る、つるの類いを円形状にしたものを使う。

他方、アサイワインやアイスクリームの原料となる。私はリオではいつも、アサイのアイスクリームをホテル近くで食べるのが楽しみであった。アサイはブラジル南東部の人々のみならず、いまでは米国やこの日本でも愛飲者が少なくない。

*写真は全てWeb から借用

アマゾンの風物詩25 –アマゾーナス州(o Amazonas)– ①

アマゾーナス州について概説する前に、Amazônia とAmazonas を混同視されておられる向きもいらっしゃるので、老婆心ながら確認の意味で述べておきたい。Amazônia
は[アマゾン地方]の意味で使われ、冠詞は女性形、従って女性名詞てある。一方、Amazonas は、o estado de Amazonas[アマゾーナス州]もしくはo Rio Amazonas[アマゾン河]の謂いで用いられるので冠詞と名詞共に男性形である。Amazonas の語尾がasで終わるからといってAs Amazonas としないこと。冠詞は常にoとなる。

ところで、リオ以外でもっとも私が出向いているところは、中西部(Centro-Oeste)のパンタナルと北部のアマゾン地方である。こうしてアマゾンの風物詩が曲がりなりにも書けるのも、旅の体験なり現地でのフィールドワークもしくは巡検から得た知見が活かされているからかもしれない。

さて、私を虜にしてやまないアマゾン地方のなかでもアマゾーナス州は、もっとも訪ねた地域である。ブラジル最大の州で、157万8千平方キロの面積をかかえている。しかも、その大半が低地の熱帯雨林で、地図にみるようにアマゾン河が東西に貫き流れる世界である。

自然保護区や国立公園などがある点で、世界有数の環境保護地域の一つになっている。その上、国内で先住民インディオが集中して居住している州で、全体の25%を占める。雨季[2月~6月]の洪水ごとに、大河および支流近くの自然景観は様変わりするから、季節を変えて訪ねるのもお勧めである。

それにしても、マナウスから10km下流でアマゾン河となる、Negro川とSolimões川とが合流する地点(encontro das águas)に幾度となく訪ねたが、合流点から10km付近までは双方がまじわることなく、Solimões川の泥色の水とNegro川のコーヒー色の、ツートンカラーをなして滔々と流れる様は圧巻そのものだ。

アマゾンの風物詩25 アマゾーナス州(o Amazonas) ②

州の北部にはピコ•ダ•ネブリーナ国立公園(Parque Nacional do Picoda Neblina)があり、国内でもっとも高いピコ•ダ•ネブリーナと3月31日(31 de
Março)の山が聳えている。一方、ブラジル最大の民衆の祭典の一つとみなされている、アマゾン河右岸のトウピナンバラーナ島位置するパリンチンス(Parintins)で催されるボイ•デ•パリンチンス(Boi de Paritins)。この民間伝承や神話、インディアオの伝統などを加味した祭もアマゾーナス州が誇るものかもしれない。

この後個別に取り上げるが、boi Garantidoとboi Caprichosoの間で繰り広げられる競演を見るために、ブラジルの津々浦々から10万以上の人が押し掛けると言われている。

取り巻く自然に民間の伝統、クルピラ(curupira)、ピンクイルカ(boto-cor-de-rosa)などの伝説が合わさったこの祭。必見の価値があることは疑いない。けれども、残念ながら一度たりとも見たことはない。写真はWEBから。