吉丸 裕介(JICA 中南米部南米課主任調査役)
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JICA によるラテンアメリカを対象とした日本発スタートアップ支援「TSUBASA」-吉丸 裕介(JICA 中南米部南米課主任調査役)
はじめに
2021年10月に発足した岸田政権は、スタートアップが起こすイノベーションを日本経済再生のカギと位置づけ、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を発表し、2021年に約8000億円であった日本のスタートアップへの投資額を、2027年に10倍を超える10兆円規模に増やすことを掲げている。
こうした中、国際協力機構(JICA)や日本貿易振興機構(JETRO)などの政府系機関も、スタートアップの支援に取り組んでいる。2020年7月16日にJICA・JETRO含む政府系9機関で創設された「スタートアップ支援機関連携協定」(通称Plus:Platform for unified support for startups)は、2022年11月11日に新たに7機関が加えられ、全16機関における相互連携を行うとともに、より一層各機関の強みを活かしたスタートアップ支援への取り組みが求められている。
JICAは「信頼で世界をつなぐ」をビジョンに掲げ、日本の政府開発援助(ODA)の実施機関として開発途上国の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた協力を行っている。より高度で複雑化する開発課題の解決に持続的に取り組むためには、革新的で多様な発想を持つスタートアップを開発協力の重要なパートナーと位置づけることが重要である。
こうした中、日本企業にとっても大きなビジネスポテンシャルを有するラテンアメリカ(中南米・カリブ)地域への進出を後押しすることで、SDGsへの貢献を目指すオープンイノベーションプログラム「TSUBASA(Transformational Startups’ Business Acceleration for the SDGs Agenda)」を2021年度より実施している。このTSUBASAにおいて、2021年度は8社、2022年度は11社が採択され、その後の中南米・カリブにおける事業展開のための支援が行われた。そしてこの秋より、3回目のプログラムである「TSUBASA2023」が始動する。
開発課題をスタートアップにとってのビジネスポテンシャルと捉える
JICAは、途上国における複雑化する課題に対して多様な力を結集するために、2022年に「Prosperity(豊かさ)」、「People(人々)」、「Peace(平和)」、「Planet(地球)」という4つの切り口から20の事業戦略「JICAグローバル・アジェンダ」を設定した4。この背景には、SDGsが国連で採択された2015年当時から、世界の課題が複雑化していることがあった。SDGs達成に向けた取り組みを加速させるために、多様なアクターとの協働・共創を促す狙いが、JICAグローバル・アジェンダにはある。
これらの「開発課題」はスタートアップにとっての「事業機会」になる。とりわけ、中南米・カリブ地域には、地域格差、森林減少や環境保全、水資源管理、保健・医療へのアクセスなど課題解決の必要性が大きい分野が存在する。また、日本は高齢化社会や防災などの地球規模の課題に先進的に取り組んできた国であるが、中南米・カリブ地域にはこうした領域の課題解決ニーズも大きい。人口約6.5億人・名目GDP約5兆米ドルの経済規模を有し、言語・宗教などの域内に共通した文化的基盤があり、全世界の6割を占めるといわれる推定約213万人の日系人社会を有する同地域は、日本企業にとって大きなビジネスポテンシャルを秘めている。
TSUBASAプログラムの特徴
こうした中南米・カリブ地域における複雑化している開発課題に取り組むために、革新的かつ多様な事業アイデアを持つ日本のスタートアップの同地域への事業展開支援を行っているのが、TSUBASAプログラムである。
当プログラムの大きな特徴は、日本政府も出資する地域最大の国際開発金融機関である米州開発銀行(Inter-American Development Bank:IDB)グループのひとつであり、30年にわたり民間主導のイノベーション促進を通じた開発課題解決への貢献に取り組んでいるIDB Labと共同で行っているプログラムだということである。IDB Labは、中南米・カリブ地域の民間セクター主導のイノベーションを促進するための資金支援(技術協力、出資、融資)を通して、当該地域内の貧困層・脆弱層における経済社会開発の促進、