『女囚たち ―ブラジルの女性刑務所の真実』 ドラウジオ・ヴァレーラ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『女囚たち ―ブラジルの女性刑務所の真実』 ドラウジオ・ヴァレーラ 


著者がサンパウロ拘置所に出入りする医師として看守や囚人達の話しにも耳を傾け、その実態を明らかにし、最後に囚人たちのいざこざから起きた暴動に軍警が介入し111人をも虐殺した事件を告発した『カランヂル駅 ―ブラジル最大の刑務所における囚人たちの生態』(春風社、2021年 https://latin-america.jp/archives/49219)は世界の注目を浴びた。
その事件後カランヂル刑務所が解体され州立刑務所となり、さらにそれが女性刑務所に再編されてからも著者はボランティアとして毎週通い、2000人以上を擁する女囚たちが吐露した心情を聞いてきた。貧困層が生真面目に生きることが難しいブラジル社会にあって、特に女性は被抑圧者であり続け、幼くして妊娠し中絶が禁じられているところから幼くして母親となり学業が阻まれ、生活苦から売春や不法薬物売買などの犯罪に走るが、犯罪の世界でも女性たちは差別され低位に置かれる。今や老齢となった医師がみた貧困女性の数々の事例は、著者ならではの真実を伝えるドキュメンタリーであり、優れた文化人類学のアプローチと言ってよい。

 〔桜井 敏浩〕

(伊藤 秋仁訳 水声社 2023年7月 305頁 2,700円+税 ISBN978-4-8010-0722-2)
〔『ラテンアメリカ時報』2023年秋号(No.1444)より〕