著者(1900~1977年)はブラジル北東部のレシフェの医師にして芸術雑誌の発行人、劇作家、演出家等多彩な分野で活躍した、ペルナンブーコ州を代表する文化人であったが、またレシフェのカルナヴァルの研究も行い多くの論説やエッセイも執筆している。2012年に民衆芸能としてUNESCOの人類無形文化遺産に登録されたフレーヴォだが、著者はフレーヴォは都市の民衆芸能だが民俗芸能ではないと言う。フレーヴォとそれを構成する踊りのパッソを50年以上にわたり観察してきた著者が、その音楽とダンスについてフレーヴォの語源・発生からの歴史的経緯、形態、カルナヴァル団体クルーベの構成、フレーヴォの作曲者と形態論、さらにパッソの由来にブラジルへ強制連行されたアフリカのアンゴラ出身の黒人達が奴隷制度下で農園主や公安当局によって日常的に加えられた暴力から身を守るために武器を使わない防御手段としたカポエイラ術があること、つまり防御のための武術からフレーヴォの演奏に合わせて踊られるダンスであるパッソに繋がったことなどを解明し、往時の社会的状況を考察している。自身も20年来パッソを研究対象としてきた訳者による1971年刊行の原書の全訳。
〔桜井 敏浩〕
(神戸 周訳 溪水社 2023年7月 248頁 3,900円+税 ISBN978-4-86327-628-4)
〔『ラテンアメリカ時報』2023年秋号(No.1444)より〕