本書では奴隷が労働力や「商品」としてどのように組み込まれ、どう酷使され、搾取されてきたか、農作業、家事労働、さらに性奴隷とその結果として生まれた子どもという奴隷再生産に至るまでの奴隷制の様々な論点を、米国の経済発展や資本蓄積のプロセスを俯瞰する中でその歴史全体に関わっていることを明らかにしている。北米での植民地世界におけるアフリカ人奴隷の導入と南北戦争以前の米国における奴隷制と反奴隷制が論考の中心になっているが、古代世界ならびに、中東・アジア・アフリカ、欧州における奴隷制の歴史、新大陸での「接触」後のアフリカと大西洋を結ぶ奴隷貿易の始まりについても解説しており、中南米でのアフリカ人奴隷の導入からその末裔がどうなっているかを理解する上でも参考になる。
著者は米国南部史、アフリカ系米国人史、特に人種、奴隷制度、人種間の対立に関する研究者として知られる英国オックスフォード大学教授。訳者は貿易論、ラテンアメリカ地域研究を専門とする明治大学教授。
〔桜井 敏浩〕
(所 康弘訳 筑摩書房(ちくま学芸文庫)2023年8月 368頁 1,400円+税 ISBN978-4-480-51203-1)
〔『ラテンアメリカ時報』2023年秋号(No.1444)より〕