『東大8年生 自分時間の歩き方』 タカサカモト - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『東大8年生 自分時間の歩き方』 タカサカモト


著者は鳥取県出身で少年時代に一時サッカーに打ち込んだ後東京大学文学部に入学したが、先輩に勧められて受講した科学史の教官の「自分の目で見て、自分の心で感じて、自分の頭で考えることをつねに実践してほしいし、できるようになってもらいたい」などの言葉に感銘を受けて以後の生き方の指針にと決めた。母の看病や登校忌避で休学を繰り返した中で海外の大学留学を志したが、選んだのは英語圏ではなくメキシコ行きだった。国費留学生として渡航しながらその身分を放棄し、一旦帰国後自費で再渡航し、タコスの屋台で働くことでスペイン語会話のみならず、後に妻となる日本人の父とメキシコの母の血を引く女性と出会う。そのままメキシコに残りたいとも思ったが復学することにして帰国、学生生活8年目に偶々インターネットニュース、動画でブラジル・サッカーの名門サントスFCのネイマールを知り魅せられ、2012年にブラジル行きを決めサントスで10日間仕事を探し、鬱病を起こす彼女との生活場所を第三国に求める地としてのブラジルの状況調べを図る。サントスFCの食堂で偶然ネイマールと会話する幸運に恵まれたものの就職活動は実らず帰国し、今度は鳥取で自由で楽しい、知的成長を目指す寺子屋を開設し生徒の指導に当たったが、やはりブラジルへの思いは断ち切れず、高三の生徒の大学受験を見届けると寺子屋をたたみ、妻と一緒に四度目のブラジルへ旅立った。

ブラジルでの生活は妻が心の健康を取り戻し、後に子を授かることになった。その後はサッカーと海外生活経験、英語、スペイン語さらにポルトガル語の語学力を活かして、来日したブラジル選手、海外遠征の日本チームの通訳やアテンドの仕事で実績を上げていったが、海外へ出る日本選手が多くなっていることから、彼らに外国語、異邦の地での生活やチームへの順応を教えるニーズに目をつけて個別指導を始め、「フットリンガル」社を創業し、国際舞台を志すプロサッカー選手を中心に語学、異文化コミュニケーション等を教えている。

東大に8年もいたという破天荒な、渡航・帰国・開業など目まぐるしい生き方をしてきたことを綴った本書だが、異文化社会の中での生き方、受験英語の活かし方など随所に著者ならではの有用な指摘が書かれている。

〔桜井 敏浩〕

(徳間書店 2023年2月 272頁 1,600円+税 ISBN978-4-19-865605-8 )