【要旨】
中国は 2001 年 WTO 加盟以降、ラテンアメリカとの貿易を拡大し、大規模な投融資を行ってきた。コロナ禍で中国の公的機関の融資は減少したが、長期の直接投資は増加し、ワクチン外交では政治的な関係を深めた。
中国はチリ、ブラジル、ペルー、ウルグアイ最大の貿易相手国であり、大規模な「一帯一路」構想に基づくエネルギーやインフラ、リチウム、銅などの鉱山資源への海外直接投資や融資の主要な供給源でもある。またキューバやベネズエラをはじめとする数か国との軍事関係も強化している。
さらに台湾との外交関係から中国との国交樹立を選んだ中米、カリブの国々も増加した。中国はグローバルサウスのリーダーという役割を担うべく、ラテンアメリカ・カリブ海諸国共同体とも協調している。
米国政府は、中国がラテンアメリカとの関係の深化を利用して、ラテンアメリカの中国への経済的な依存度を高め、台湾の孤立を促し、キューバやベネズエラ、ニカラグアのような権威主義政権を煽って安全保障上の脅威となることを危惧している。
しかし、ウクライナやパレスチナ情勢に忙殺されるバイデン政権には、ラテンアメリカに注力する時間も財的資源も限られている。
米国議会でも、ラテンアメリカ通のメネンデス前上院外交委員長の失脚により、さらにラテンアメリカ政策への関心が薄れ、米国の地域への関与が益々希薄になる可能性もある。
この間、中国は民主主義、社会主義などの政治的スタンスを差別せず、権威主義的国家や人権侵害で国際的に非難されている国とも関係を継続し、長期的且つ、現実的な視点で戦略的な直接投資を着々と増やし、ラテンアメリカとの関係を深化させている。
もはや中国のラテンアメリカでの存在感の増大は否定できず、共存の時代に入っているとも言える。中国への対抗や牽制のみではなく、ラテンアメリカにおける協調、協力関係の構築も米国の重要な戦略の一つであるべきであろう。
キーワード: ラテンアメリカ、中国、経済安全保障、バイデン政権
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ラテンアメリカ・カリブ研究所レポート ILAC2023-10「中国のコロナ収束後のラテンアメリカへの関心」ホワイト 和子(ラテンアメリカ・カリブ研究所 シニアフェロー【在ワシントン DC】)2023 年 11 月