連載エッセイ286:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その50 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ286:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その50


連載エッセイ286

「南米現地最新レポート」その50

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「2023年10月2日発」

今日10月1日から夏時間となり、日本との時差が1時間縮まって12時間となりました。夏時間から冬時間に切り替わる時は1時間長くなりますが、今日はいつもよりも時間の進むのが少し早い感じです。先週の猛暑は去って、朝晩は20℃前後、日中でも30℃以下の過ごしやすい気候が暫く続くという予報、さわやかな春の一日となっています。

こんな中、先月来マスコミで取り上げられているのは隣国アルゼンチンとの各種問題の解決に向けた交渉の進捗状況です。主な議題は二つ、パラグアイ川下流のアルゼンチン部分で徴収される河川通行料と、両国にまたがって流れるパラナ川の間に設置されたYacyreta水力発電ダムの売電代金の設定について、です。これらの懸案事項は、アルゼンチンで今月22日に行われる大統領選挙で、政権交代の可能性があるために、パラグアイ側の主張を明確にしておき、政権が交代となっても次期政権にシッカリと引き継いでもらうというパラグアイ政府の意思表明の目的もあって今盛んに交渉が行われている訳です。

今日はその一つ、ヤシレタ水力発電所の電力代金のアルゼンチン側未払い部分の解決についての報道がなされました。

https://www.ultimahora.com/argentina-paga-a-paraguay-primera-cuota-de-la-deuda-por-cesion-de-energia

これは両国で共同運営されている発電所の、アルゼンチン側で多めに引き取っている部分の代金決済に関するもので、記事によると、未払いの36百万ドルの三分の一に当たる12百万ドルの支払いが行われたとのこと。この記事によると、決済代金の基本となる電力料金は1㎽あたり36ドルとのことなので、日本の料金に換算するとkwhあたり5.4円。

日本の料金が30円程度として日本の5分の1以下。

https://selectra.jp/energy/guides/ryokin/1kwh

ということが判ったので、電気を必要とする産業、是非パラグアイに進出してください。

https://jp.reuters.com/article/argentina-election-milei-idJPKBN30509B

因みにアルゼンチンの政権が急進派のミレイ氏主導の右派に代わったとしても、そんなに簡単にアルゼンチン経済が好転する訳はありませんから、先ずはパラグアイへの投資で南米事情を把握し、将来的にブラジルやアルゼンチンが安定した時点で本格投資を決めるという手も有りかもしれません。

「10月9日発」

先ずは、今週発表された世界銀行によるパラグアイ経済の見通しに関する記事をご紹介します。

https://www.lanacion.com.py/negocios/2023/10/05/banco-mundial-ubica-a-paraguay-con-el-mayor-crecimiento-de-la-region-al-cierre-del-2023/

ご覧の様に南米域内で圧倒的な成長率となるという見通しとなっています。

左派政権の発足で成長が止まると懸念されたブラジルや、今や左派が定着したボリビアも成長しているのは安心材料ですが、同じ隣国でも圧倒的なマイナス成長予測となっているアルゼンチン、今月末の大統領選挙とそれに続く政権交代に向けて今週も様々な政治的駆け引きが繰り広げられたパラグアイ・アルゼンチンの二国間関係ですが、隣国の政治がどのような方向に向かっても、8月に発足したペニャ政権の安定感には影響はないでしょう。

ところで、南米で一番有名な日本ブランドって何でしょうか?嘗ては世界中何処に行っても見られた日本の家電ですが、今や韓国・中国のブランドに押されてほぼ絶滅状態。

勿論、トヨタや日産・ホンダに代表される自動車はまだそれなりに存在感を示しています。しかし、HyundayやKIAといった韓国勢、BYDに代表される中国勢に加えてMahindraというインドメーカーの製品も台頭していて、日本のブランドが圧倒的に強いとは言えません。そんな中でスーパーの中で圧倒的な地位を占めているのが日清食品の製品です。

特にカップヌードルはブラジルでもパラグアイでも数多ある地元産の類似品を押しのけて今でもトップブランドを維持しています。

その秘訣の一つが日本らしさを強調したマーケティング。

https://www.inside-games.jp/article/img/2023/10/06/149144/1243761.html

https://www.youtube.com/watch?v=9dkSs0LHChQ

原神というゲームからアニメに派生した人気キャラクターを起用して、カップヌードルを食べる若者層にアピールしています。

業界を超えた市場開拓のコラボ。まだまだ色んな手法を使える筈。そうすれば日本製品の見通しも明るいと思います。

「10月16日発」

現在住んでいる場所から約40㎞のところにある世界自然遺産イグアスの滝の水量が上流部で発生した集中豪雨の影響で増水し、滝の水量が1秒に1050万リットル=1万トンという記録的なレベルとなり、有名な悪魔の喉笛という大瀑布のアルゼンチン側の入り口が閉鎖されました。

https://www.ultimahora.com/cataratas-del-yguazu-alcanza-un-caudal-historico-de-10-millones-de-litros-por-segundo

↑通常の五倍の写真。今回は通常の十倍以上なので、相当な流量の様です。

調べてみると、昨年も同じ時期に水量1400万リットルを記録して、アルゼンチン側の遊歩道が冠水して入園禁止となっていたようで、昨年の大増水の様子は以下のサイトで映像でもご覧になれます。https://sp.m.jiji.com/article/show/2832386

今は大豆の播種の時期で、この時期に適度な降水があることは世界の穀倉地域と言える南米南部では重要な意味を持ちますが、降り過ぎはいけません。

イグアス川の水位そのものは、1700㎝と現時点では通常域内とのこと。

https://www.hidraulica.gob.ar/nivhidr.php

先日はブラジル北部アマゾン川で大量のイルカが水温の上昇で死んだというニュースが流れましたが、今度は同じアマゾンで大旱魃という報道もありました。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/775136?display=1

世界的な天候異変に重ねて、軍事侵攻等の要素も加わって世界情勢は混迷さを増しています。が、こうした不穏な流れを断ち切って、一日も早く正常さを取り戻すための創意工夫と協調の努力が必要ですね。では、これからイグアスの滝の様子を観に行ってきます。

「10月23日発」

今週はサソリに刺された12歳の少年が死亡したというニュースとともに、サソリの危険について周知する記事が各新聞に掲載されました。

被害者はアスンシオン近郊に住む少年で、10月8日にサッカーの練習の為に父親と自宅を出る際に靴の中にいたサソリに刺され、その後緊急入院した病院で昏睡状態となったまま今週亡くなったそうです。

昏睡状態になった後、ご両親は臓器移植の承諾をするなど、大変辛い決断を迫られたものの、病院での治療に問題が無かったかどうか、当局の調査を要請しています。

https://www.ultimahora.com/familia-de-nino-fallecido-por-picadura-de-alacran-pedira-investigacion-al-sanatorio-donde-fue-atendido

またサソリに刺されないようにするにはどうすべきか?等の注意事項に関する記事も多く掲載されています。

https://www.abc.com.py/nacionales/2023/10/20/por-que-hay-alacranes-en-casa-y-donde-se-esconden/

これらによると、サソリは昆虫ではなく、蜘蛛と同じ節足動物の一種であり、殺虫剤は効かないために散布しても意味がないことや、ゴキブリを好んで食べるので、家の中でゴキブリを繁殖させないことが重要である、と説いています。

パラグアイに住んで7年経っていますが、まだ家の周辺でサソリを見かけたことはありません。昨年末から住んでいる戸建て住宅では、アリや蜘蛛、ムカデなどが床を這っている様子は目にしますが、サソリに遭遇したことはまだありません。また仕事仲間に訊いてみても、サソリが居るという話は聞いたことはないです。引越て来た当初はよく見かけたゴキブリすらも最近は見かけませんが、これはヤモリや蜘蛛が複数で家の中を護ってくれている成果かも知れません。

今回の報道をみて感じるのは、普段滅多に視ないものでも、一旦死亡事故が発生すると世間全体で騒ぐマスコミ信奉の性質が、パラグアイでも存在することです。日本でもヒアリ騒動が起こったことがありますが、大切なのは妙に神経質にならずに冷静に自然と対峙することでしょう。ちなみにWikipediaで調べても、サソリの毒はそんなに強力ではない模様ですし、上の新聞記事でも刺されたら病院で適切な診療を受けることが大切、と書かれています。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%BD%E3%83%AA

ところで、スペイン語でもサソリはescorpioででも通じますが、こちらは一般的には星座のさそり座のことを示すので、節足動物サソリを示す単語はalacránが使われるようです。英語で蜘蛛類のことをarachnidと言いますから、これを観てもやはり同じ範疇の語源の言葉と考えられます。alacránとarachnidではLとRの綴りが違う、という御指摘があるでしょうが、スペイン語やポルトガル語ではLとR、SとZの区別があまりハッキリしていません。白はスペイン語ではblanco、ポルトガル語ではbrancoです。

ビリーバンバンの「白いブランコ」はスペイン語やポルトガル語を憶えるために作られた歌詞かも知れません。日本語のブランコの語源は諸説あるようです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B3#:~:text=%E3%80%8C%E3%81%B6%E3%82%89%E3%82%93%E3%81%93%E3%80%8D%E3%81%AE%E8%AA%9E%E6%BA%90%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%AF,%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AA%AC%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82

野球やサッカーに行く時も公園のブランコに乗りに行く時も、玄関で靴を履く前に、中に何かいないかどうか確認して足を入れましょう。

「10月30日発」

今週は金曜日に全国で雷を伴う大雨が降りましたが、その落雷が直撃した地面の周辺にいた牛80頭が落命したというニュースが流れました。

https://www.abc.com.py/nacionales/2023/10/27/caida-de-rayo-causa-muerte-de-80-animales-vacunos-en-canindeyu/

火曜日には同じカニンデジュ県での落雷で自宅にいた39歳の男性が亡くなったというニュースが流れたばかり。https://www.ultimahora.com/hombre-fallece-tras-caida-de-rayo-en-su-propia-vivienda

カニンデジュ県は今住んでいるアルトパラナ県のすぐ北側に位置するブラジル国境の地域ですが、同じ週に激しい落雷が二度もあると、送電網等への影響も心配になります。

日本でも不安定な大気の状態から各地で雹が観測されたとか、熊本城が落雷被害に遭ったと報じられていましたが、地球の反対側でも似たような気象問題が発生していた訳です。

ところで今週はパラグアイで身分証明書のデジタル化に関する法律が公布されました。

https://www.abc.com.py/nacionales/2023/10/24/pena-promulga-ley-de-validez-digital-de-documentos-obligatorios/

これによって今までバラバラのカードだった身分証明書(cédula de identidad)・自動車税納税証明書(la habilitación vehicular)・運転免許証(el registro de conducir)・自動車登記証明書(la cédula verde vehicular)が一括してスマホ画面で表示できるようになるとのことで、既に政府の登録用ページは開設されているので、早速登録してみました。https://www.paraguay.gov.py/crear-cuenta

身分証明書番号に名前・生年月日・メールアドレスと携帯電話番号を打ち込んで、現在使用している身分証明書の写真を張り付けて「次に進む」をクリックすると、驚いたことに自分が持っている自動車の車種やプレートナンバーに関する質問が出てきて、これらに答えると自動的にデジタル証明書が交付される仕組みのようです。

しかし、今回はホームページが提示してきた番号が間違って表示されていたので、最後までは進むことなく一旦登録を取り下げました。本来の手続き開始は来週からとのことなので、週が明けたら改めてチャレンジしてみようと思います。

それにしても、身分証明書に相当するマイナンバーカードの普及だけでも随分手間と無駄な時間をかけている日本、新技術の導入でカード自体が必要なくなるパラグアイを見習っては如何でしょうか?南米ではコロンビアとアルゼンチンが並行的にこのデジタルIDを導入しています。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC05DI70V01C23A0000000/?n_cid=NMAIL006_20231029_A

パソコンもスマホも過去のモノになるという予想すら登場した今、技術の導入に恐れをなしてグズグズしていると、デジタルの雷に打たれて立ち上がれなくなりますよ。

以    上