連載パナマ・レポート42:ルベン・ロドリゲス 2023年10月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート42:ルベン・ロドリゲス 2023年10月分


連載パナマ・レポート42: ルベン・ロドリゲス 2023年10月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)

I.政治

 A.銅採掘契約の成立

 パナマ国会は10月20日にカナダのFirst Quantumの子会社である鉱業会社Minera Panamáの採掘権に関する契約を承認し、同日の夜、コルティソ大統領が署名した。パナマ最高裁判所は、2017年の旧契約はパナマ憲法に違反するため無効として、判決は2021年12月に確定したため、Minera Panamáの銅採掘権は法的な根拠がなくなった。政府とMinera Panamáが新たな契約の交渉を行い、2023年8月に国会に提出した。しかし、契約法案では、Minera Panamáの全国における国有地または私有地についての土地収用権を含め、パナマ憲法に違反するおそれのある約款が規定されていると見解があった。

 以上をもってパナマ国会は契約法案に関する議論を中止し、10月2日に政府が法案を取り下げた。政府とMinera Panamáの交渉は再開し、新たな契約法案が提出された、議論中コルティソ大統領とカリゾ副大統領は与党PRD党の議員と親密会議を行った後、法案が最速で可決された。議論中、契約承認および署名に反対するデモが行われたが、署名後、労働組合、様々な市民グループがデモに参加することとなり、教育省、パナマ大学および、いくつかの私立大学が全国の授業中止を発表した。

 B.選挙法改正法案

 10月12日に、与党PRD党が提出した選挙改正法が国会で可決され、同日コルティソ大統領によって署名された。改正では候補人数および当選決定ルールが2024年総選挙においてPRD党の有利となるという批判の声がある。選挙裁判所のフンカ(Junca)判事が、総選挙の8カ月前に選挙法を改正することは望ましくないと説明し、改正に反対したが、法律が発布されたため適用せざるを得ないと述べている。なお、野党CD党の選挙期間中の刑事責任免除の拡張を目的としていたが、すべての改正に対する国民の批判を理由とし、法案を取り下げた。

 C.New Business事件裁判の判決

刑事事件高等裁判所は10月24日にマルティネリ元大統領(2009年-2014年)が被告となっている事件において、地方裁判所が禁固刑128か月、1900万ドルの罰金刑に処する有罪判決を支持した。マルティネリ元大統領がパナマ国庫から約4400万ドルを利用して、新聞の出版社であるEPASAを買収したマネーロンダリング事件であり、元大統領が有罪判決をうけるのは68年ぶりである。また、他の21被告の内、7人もマネーロンダリングに関与したと認められた。

 マルティネリ元大統領は、自ら結成したRealizando Metas党(RM党)大統領選挙の候補として出馬する予定であり、有罪判決は選挙参加妨害目的であると述べている。本判決に対して、最高裁判所での上告が残っている。パナマ憲法では、禁固5年以上の有罪判決を受けた者は大統領になることができない。判決は、禁固刑128か月が科されたため、来年5月上旬に行われる総選挙までに最高裁判所で判決が確定された場合、マルティネリ元大統領は出馬できなくなる。

II.経済

 A.パナマにおけるGloBEルールの運用指針

 近々、パナマではOECDのBEPS2.0(税源浸食と利益移転、Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトに関する議論が増加している。BEPSプロジェクトは2012年に立ち上げられた。多国籍企業が利益を移転することによって本来納付されるべき税金の源泉浸食防止を目的とし、 そのうち、GloBEルールは実効税率計算方法に基づいて法人税の最低限負担割合を15%とする仕組みである。

 OECDの加盟国としてパナマのGloBEルールに応じる税制の改正を行う義務があるが、兼ねてから多国籍企業向けの特別法人税が設けられている。デ・グラシア総税局長は、パナマ政府は新たな税制の適用方法を検討しており、近々で具体的な対策を公開する予定がないと発表した。

以   上