『寝煙草の危険』 マリアーナ・エンリケス - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『寝煙草の危険』  マリアーナ・エンリケス


アルゼンチンのホラー女流作家の手になる12編の短編集。2017年に英訳本が出て以来、英米の有力新聞・雑誌が採り上げ世界的にも知られるようになり、国際的な文学賞の候補にも上がった。現代アルゼンチンを舞台に恐怖小説の定番である幽霊、呪術、降霊術、ゾンビ、幻視などの超自然的モチーフによって、現実の恐怖や不安を描いている。

アルゼンチンでは1950年代から独裁制、キューバから始まる革命と米国の介入の影響で、文学は政治や時代性を描かざるを得なくなってきたが、それらをリアルに描くだけではなく、現実が政治や社会情勢という名の恐怖-軍事政権による反政府派と見做した市民の拉致による行方不明者たち、密かに養子に出されたその子どもたちの存在など-を、ホラーとして表現しようとしたと著者自身も語っているという。

〔桜井 敏浩〕

(宮崎真紀訳 国書刊行会 2023年5月 288頁 円+税 ISBN978-4-336-07465-2)